直言
Chokugen
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直言 ~
鈴木 隆夫(すずきたかお)
一般社団法人徳洲会理事長
2020年(令和2年)2月3日 月曜日 徳洲新聞 NO.1221
自動車メーカーの孫請けだった鉄工所を「社員が誇りに思えるような夢工場へ」、「白衣を着て働く職場に」という夢を実現し、今、世界から注目を浴びている会社があります。京都府宇治市に本社を置く「ヒルトップ」がそれです。毎日同じ自動車部品を大量生産していた鉄工所は宇宙やロボット、医療、バイオ関連の部品まで手がけ、取引先はNASA(米航空宇宙局)やディズニーなど世界中に3000社を超えるまでに成長。全国から入社希望者も殺到し、この時代にあってまさに奇跡の会社となっています。
副社長の山本昌作(しょうさく)氏は入社当時、油まみれで単純作業を繰り返し、機械に使われる毎日にうんざりしていました。人間が人間らしく、ワクワクして働く――そんな職場を夢見て、多品種少量生産、超短納期へのビジネスモデルの転換を断行しました。
「捨てていいもの」と「残さなくてはいけないもの」をどう判断するか――。鉄工所の要と思われた職人、量産体制を捨て、親会社に生かされるのではなく、取引先を開拓し、強い覚悟をもって自分たちで生きる選択をしたのです。
職人の匠(たくみ)の技や勘、ノウハウ、経験までも数値化し、機械学習させるなど失敗と苦労を重ねながら24時間無人稼働化を徹底的に推進。その結果、工場には人がほとんどおらず、その大部分がデザインや企画立案などクリエイティブな仕事に専念、現在20%超の利益率を誇っています。「社員が働くことを誇れる会社」を追求し、「油まみれの汚れた作業着」から「白衣のユニフォーム」に変貌を遂げたのです。
病院も医療専門者という職人気質の「名人」を頂点とした労働集約型産業という意味で、似ています。手技や診断技術、経験や勘を数値化、AI(人工知能)に学習させ、診断や手術の支援ロボットを導入することは、医師や看護師らの労働を軽減するだけでなく、医療の均質化、離島・へき地での遠隔医療にも役立ちます。
ロボットやAIの技術で実現できることは多様です。患者さんは受診前にスマホで問診を受け予約。来院したら顔認証で受付、受診を終えた後は待ち時間なくキャッシュレス決済で会計します。徳洲会グループの電子カルテネットワークにより、蓄積された膨大な臨床のリアルワールドデータに基づき、最善の診断結果や治療方針をAIが提示。大量の画像診断を瞬時にこなし、医師の診断も支援します。健診センターでは過去のデータから将来の健康状態を予測、病気になる前の段階で質の高い保健指導を実施、生活改善を行うことにより、超高齢社会で健康寿命を延ばします。検体検査のために一日中検査室で過ごしていた臨床検査技師は、自動化により、患者さんのかたわらでエコー検査を行います。
技術は人減らしの道具ではなく、より多くの職員を単純作業から解放し、待合室のカウンターやナースステーション、事務室から外に出すための手段です。ひとりでも多くの職員が単純作業から解放され、患者さんに寄り添い、人の温もりを伝える仕事に就いてほしいのです。
医療者にとって最大の喜びは、患者さんからの感謝や回復という結果です。そのために安心、安全、親切で卓越した医療を提供したいのです。これを技術が叶えられるなら、それは夢の成果です。非営利法人の利益は、患者さんに還元するためのものです。徳洲会グループに「AIホスピタル部門」を創設し、夢の実現に向け走り出したいと考えています。職人技のデータ化は「言うは易く、行うは難し」ですが、踏み出さなければ未来はあり得ません。100年先の未来は、私たちが予期すらできぬ世界でしょう。「できたらすごい!」と夢見た以上に世界は変化していることでしょう。
夢の実現には、願望を具体的に描き、代償としてなくすものを覚悟し、「いつまでに」を決め、詳細な計画を立て記したものを毎日見て目に焼き付けます。
私が長年、目に焼き付けてきたのは「伝説の医療システム」――経営と弱者のための視点をもって運営する徳洲会の全施設が、有機的に結び付き、患者目線、職員目線、地域社会目線で最高の医療・介護・福祉サービスを提供することです。“Fabled(フェイブルド)Hospital Group Tokushukai”を目指し、皆で頑張りましょう。