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直言

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篠崎 伸明(しのざきのぶあき)医療法人沖縄徳洲会副理事長 湘南鎌倉総合病院院長(神奈川県)

直言 生命いのちだけは平等だ~

篠崎 伸明(しのざきのぶあき)

医療法人沖縄徳洲会副理事長 湘南鎌倉総合病院院長(神奈川県)

2019年(令和元年)10月28日 月曜日 徳洲新聞 NO.1208

医療・介護サービスの価値向上のために
患者さん利用者さん目線の改善活動が要
「VALUE BASED HEALTHCARE」の視点で評価

「FORGOTTEN JOINT SCORE(フォアゴットン ジョイント スコア)って知っていますか」

湘南鎌倉総合病院人工膝関節センターの医師から、このような問いかけがありました。まさに患者さん目線の医療の質について検討していたところでした。聞けば、欧州では人工関節置換術を受けた患者さんが約1年後に、手術を受けたことすら忘れ、日常生活を送れているかどうかが、術後の成績を計る指標のひとつになっているようです。また、外傷整形外科の先生方は「四肢切断での再接合術のアウトカム(治療の結果)は、元々あった機能をどれだけ取り戻せるかです」と言いきっています。

BLS(一次心肺蘇生法)、ACLS(二次心肺蘇生法)は非常に洗練された心肺蘇生のプログラムですが、その意義は、心臓の再拍動率の向上だけではなく、蘇生にかかる費用を下げ、社会復帰率を上げたことだと言われています。

医療・介護の価値を創造・向上する競争こそが大切

私が研修医の頃、重症患者さんを受けもち、ありとあらゆる手を尽くして救命したものの、長期臥床(がしょう)による尖足(せんそく)(つま先立ちのような足の形になること)を合併してリハビリテーションに時間を要し、結局、車いすでの生活になってしまったことを思い出しました。まだチーム医療という考えも、早期リハビリという考えもなく、救命そのものに価値があった時代の話です。

これらのことに共通しているのは、医療の質・価値の考え方が従来の病院目線から、新たに患者さん目線へと変わってきている点にあります。

一般の企業では競争によって品質が絶え間なく改善されます。そして、急速なイノベーション(革新)によって、新たな技術や優れた手法が一気に普及し、競争優位なものが成功・成長するのに対して、劣ったものは市場からの撤退を余儀なくされます。より多くの消費者ニーズを満たすべく高品質・低価格を実現し、その結果、価値は改善され、市場が拡大していくのです。

医療界では、かつての鏡視下手術の導入が、まさに当てはまります。価格の低下は在院日数の短縮によって実現しました。そして従来言われていた質とコストの関係、つまり質を上げるためには価格を上げなくてはならないという既成概念を完全に否定しました。ただし、これは例外的なケースであり、一般的には医療・介護分野の競争は一般企業とまったく異なり、誰かが儲けると他の誰かが損をするというような、パイを拡大するのではなく再分割するに過ぎないゼロ・サム競争へと引き寄せられるように見えます。この手の競争は、競争の本質ではないですし、医療・介護の本質でもありません。これからは患者さんにとっての医療・介護の価値(VALUE)を向上させたり、価値を創造したりするような競争を起こすことが必要となります。

国は、各病院の機能評価係数を公表し、病院の体制、医療安全への取り組み、5疾病5事業への取り組み、重症患者さんの受け入れ、複雑な併発症をもつ患者さんの受け入れ、在院日数などの情報を収集し、医療機関ごとに医療費の支払いに差を付けています。しかし、これらは個々の病態や疾病の結果を直接に評価したものではありません。

患者さん自身はどうだったか 自らの治療成績の公表も覚悟

本来、患者さんにとって良い治療成績をあげれば、退院後にかかる費用も含め、医療コストは下がるはずです。これから私たちは退院された患者さんの1年後、3年後、あるいは、それ以上の治療結果まで見極める姿勢を身に付け、患者さんにとって、どうだったのかという反省をしなくてはなりません。いわゆるVALUE BASED HEALTHCARE(バリュー ベ ースド ヘルスケア)(価値に基づく医療)という視点です。従来の指標である術後の感染率、退院までの日数など病院目線の指標も大切ですが、患者さん目線の治療結果、「手術したことを忘れて歩き回れる」といった声を患者さんから聞くことにこだわる姿勢も大切になるでしょう。そして、自分たちの成績を公表していく覚悟も重要です。

これは医療だけでなく介護の領域にも当てはまります。私たちは患者さんや利用者さんに対する医療・介護サービスの価値を上げることで、ゼロ・サム競争に巻き込まれることなく、健全な競争のなか、大きなグループとして患者さん、利用者さんの立場に立ち、質を高める改善活動を行っていかなくてはなりません。皆で頑張りましょう。

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