直言
Chokugen
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直言 ~
東上 震一(ひがしうえしんいち)
医療法人徳洲会副理事長 岸和田徳洲会病院院長(大阪府)
2019年(令和元年)8月26日 月曜日 徳洲新聞 NO.1199
「私たちは『いつでも、どこでも、誰でもが医療費など心配せず、安心して最善の医療を受けられる社会』にすることが理想である。『いつでも、どこでも、誰でもが』ということは、金持ちでも庶民でも、大都会でも農村・離島でも、先進国でも発展途上国でも、ということだ。いつ起こるかわからない急病救急医療をなおざりにして、『医療をやっている』とは言えない。患者さんの立場で年中無休・24時間オープンで医療を行うこと、これが医療の最低条件である」
引用したこのメッセージは1979年4月27日に徳洲会の徳田虎雄・前理事長が旧・茅ヶ崎徳洲会病院の地鎮祭で行ったスピーチの一部です。徳洲会の理想を何時間でも語ってやまなかった前理事長の情熱が伝わってくるようで、理由もなくもっと頑張らねばと急き立てられる思いになっている自分に気付きました。久しぶりに前理事長のメッセージ力に触れた思いです。
急病救急医療に対する徳洲会の姿勢は、私たちの理念のひとつである「断らない医療」の全国展開として、73年の徳田病院(現・松原徳洲会病院)開設から始まり、現在、全国71病院に拡大し、発展を続けています。今では「断らない医療」というフレーズは、徳洲会の枠を越え、日本の急性期医療を担う多くの医療現場で、あるべき姿として掲げられるまでになっています。
つねに、その時の医療の現実のなかで、患者さんにとって何が必要で、何が足りないことなのか、どうすることが正しくて、正しくないのかを真摯(しんし)に考える必要があります。これまで徳洲会の成長を支えてきた核心は、増収対策や支出削減の努力もさることながら、私たちが愚直に取り組んできた救急医療に対する姿勢の“正しさ”であり、それが多くの支持を得てきた結果のように思えてなりません。
岸和田徳洲会病院の心臓血管外科外来には、週300人という、他の施設から見れば非常に多くの患者さんが通院されます。これは術後フォローに対する私たち心臓外科チームのこだわりが反映されたものです。そのなかで術後10年、20年と経過してきた患者さんがおられますが、最初はひとりで診察室に入ってきたのが、いつからか家族が付き添い、そして最後は車いすになるという変化を見てきました。
先日、ケアマネジャーと一緒に、手術を受けて15年が経過したある患者さんが、入所することになった高齢者施設(有料老人ホーム)と、その施設内のリハビリスペースを見学する機会がありました。毎日50人近くの利用者があるとのことでしたので、ある程度大型の通所リハビリ施設に相当するのだと思います。利用者1人当たり3㎡が定められた広さの基準ですから、50人で150㎡(10m×15m)。利用者のなかには、車いすの方もおられますから、その広さを想像してみてください。扉を開けてすぐの玄関に相当するスペースに、歩行訓練用の平行棒が設置されており、このリハビリフロアで歩行訓練などは、とても不可能と思える空間でした。
救急車のたらい回しが常態化していた時代に、私たちはその現実に異を唱え、救急医療のあるべき姿と、その正しさを世に示しました。今、介護の実際に目を向けた時、介護保険制度の下、社会的弱者にならざるを得ない高齢者を取り巻く介護サービスの現実に目をつむるわけにはいきません。高齢者の方々に快適で良質な住環境とリハビリ環境を、利益のみを追求することが目的ではないと宣言できる徳洲会なら提供できるはずです。
昨年度、そして令和になった今年度も徳洲会グループの経営は安定しており、事業計画を達成すペースで、経営状況は推移しています。徳洲会医療経営戦略セミナーでは、グループ全体の税引前利益の実に80%を、都市部にある急性期医療を担う中核病院(16の超規模病院)が占めると報告されていますが、本当にこれで良いのでしょうか。この不自然なギャップが、私たちの未来を保証し得るのでしょうか。残りの20%に含まれる中・小病院のなかには、徳洲会の存在意義でもある離島・へき地医療を担っている病院もあるのです。今、私たちはあらためて“正しさ”を示すべきトッププライオリティー(最優先事項)として、高齢者を取り巻く療養・介護環境に目を向けるべきです。皆で頑張りましょう。