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直言

Chokugen

久志 安範(くしやすのり)(与論徳洲会病院院長(鹿児島県))

直言 生命いのち だけは平等だ~

久志 安範(くしやすのり)

与論徳洲会病院院長(鹿児島県)

2019年(令和元年)8月12日 月曜日 徳洲新聞 NO.1197

島内で完結できるようプライマリケア 中心に予防まで見据えた医療展開が要 当院の電子カルテは8割以上が顔写真付き

与論島は鹿児島本土から南へ563㎞、沖縄本島から北へ23㎞のところにある周囲23㎞の小さな島で、人口は約5300人、高齢化率は約33%です。美しい珊瑚と白い砂浜に囲まれ、サトウキビと肉牛の生産が盛んです。与論徳洲会病院は15年間の誘致活動の結果、1996年1月、許可病床81床で開院し、今年で23年目を迎えます。

私は83年に徳島大学医学部を卒業し、沖縄県の南部徳洲会病院に入職。同院ではプライマリケア(総合診療)が学べ、全科ローテーションできました。現在の新医師臨床研修制度とは異なり、1年目から専門医研修が可能な時代でもありました。同院での16年間は救急医、外科医として多忙な毎日でした。徳洲会の軽飛行機「徳洲号」での移動や海上保安庁のヘリ、自衛隊の離島救急搬送用ヘリに添乗、約50回、患者さんを離島から沖縄本島の病院に搬送しました。

島唯一の病院を大切に思う方々の存在が何よりも大切

当時の上司である故・金城 浩(きんじょうひろし)院長から「与論島に2~3年行ってこい」と言われ、98年11月、与論病院の院長として赴任し、早22年。離島の院長のなかでは在任最長記録を更新しています。当初、常勤医は私ひとりだけで、応援の医師と研修医の計3人体制が2005年まで続きました。その後13年間、内科の常勤医がひとりいましたが、今年1月からは常勤医が外科の私ひとり、研修医は2週間から2カ月の間隔で、3~4人。このため島根県の出雲徳洲会病院の田原 英樹(たばらひでき)院長から医師を応援していただき、現在も継続中です。

与論島には診療所が2カ所ありますが、病院は当院のみです。 救急車は、ほとんどが当院に来ますが、搬送受け入れ拒否は一度もありません。救急処置、緊急手術にも対応し、対応できない心臓大血管、中枢神経などの疾患はドクターヘリや自衛隊ヘリで搬送となりますが、当院開院後はヘリ搬送の件数が激減しました。島外の医療機関で治療を受けると、交通費や宿泊費、食事代など、お金も、時間も、手間もかかります。人工呼吸器を使用する重篤な肺炎も、島内で治療可能なら患者さんはとても助かります。できるだけ島内で医療が完結するように、プライマリケアを中心として、日頃から予防まで見据えた医療を展開することが重要です。

12年10月、64列CT(コンピュータ断層撮影装置)を設置、心臓冠動脈撮影を開始。13年9月には待望の電子カルテを導入。 16年9月からは1・5テスラのMRI(磁気共鳴画像診断装置)が稼働しています。私が徳田虎雄・徳洲会前理事長に約束した都会に負けない医療を提供するためのハードが、少しずつそろってきました。しかし、大事なことは島にひとつしかない病院である当院を、大切に思ってい ただいている島の方々の存在です。当院の電子カルテには、患者さんの顔写真が載っています。カルテは開院当初から通し番号が振られ、現在1万7000番台。その8割以上が顔写真付きです。患者さんの取り違えによる投薬や処置の間違いを防ぐ、大変良い方法です。電子カルテによって蓄積した情報を多職種が共有することで、医療の質を上げることもできます。

与論の“自宅で最期迎える”貴重な習慣絶やさぬよう努力

与論島では、亡くなる時は自分の家でという習慣があり、島での在宅死の割合は約7割。島の方々は、ご家族に見守られながら畳の上で最期を迎えないと、魂が成仏できないと信じています。亡くなる前の自宅搬送は当院にとって大変な仕事で、医師も同行します。家に帰ると、患者さんも、迎えるご家族も表情が穏やかになっています。この貴重な習慣を絶やさないように、努力したいと思います。

離島ならではの不便さもありますが、それでも都会と同じような医療サービスを受けて然るべきです。それが“生命だけは平等だ”の理念なのです。私はいつも「直言」で、公共機関や学校が実施している離島・へき地へのローテーションによる職員派遣を、徳洲会は医師も含め実施すべきと提案してきました。くしくも5月の徳洲会医療経営戦略セミナーの院長会で、離島・へき地病院の院長らから、そのような問題提起がありました。すぐには解決されるとは思いませんが、地道に対策を講じていただきたいと思います。世の中はどんどん変わっています。医療界も変わらなければなりません。徳洲会も変革が求められています。皆で頑張りましょう。

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