徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

若山 昌彦(わかやままさひこ)(皆野病院院長(埼玉県))

直言 生命いのちだけは平等だ~

若山 昌彦(わかやままさひこ)

皆野病院院長(埼玉県)

2019年(平成31年)1月28日 月曜日 徳洲新聞 NO.1169

「心を、受け継ぎ、受け渡す
距離を超えて、時を超えて」
自分が本当にやりたいことを

皆さん、「おかげ犬」をご存じでしょうか。これは、お伊勢参りに自分が行きたくても行けない時に、思いを託し、代わりにお札をもらってきてもらうために遣わす犬のことです。連綿と続く日本人の心や文化の一端を今日に伝える昔の風習です。

移動手段が限られていた江戸時代。たとえば江戸から伊勢神宮までは、徒歩で往復すると約1カ月かかりました。体が丈夫でないと、行きたくても行けません。そんな時、犬に思いを託したわけです。

犬の首に袋をぶら下げ、お金と住所などを書いた紙を入れておきます。すると犬を導いたり、餌をあげたり、泊まらせてあげたりと、さまざまな人たちが助けてくれるのです。ついに伊勢神宮に着き、お札を袋に入れてもらいます。その後、また人々の助けを借りて、もといた土地に戻ってきたそうです。

大勢が自分を育てて支えてくれたからこそ感動できる

信じられない話ですが、「おかげ犬」は実際にあったようで、歌川広重の浮世絵にも描かれています。豚や牛を遣わす変わった人もいたようですから、「おかげ犬」はそれほど珍しいことではなかったのかもしれません。犬も頑張ったわけですが、やはり人の心が実現させたことだと、そのような心をもつ人が大勢いて連携したからこそできたことだと思います。

人が長い道程を歩いて旅をする時代は過ぎ去り、犬の飼い方も変わり、今の日本には「おかげ犬」はいませんが、「おかげ犬」を生んだ人の心は日本文化として残っているはずです。

私も昨秋、お伊勢参りをしました。内宮(ないくう)の御手洗場(みたらしば)という場所は、川辺なのですが、ここで、お参りする前に手や口を清めます。そこが、とても美しい場所でした。青空を背景に紅葉の葉が風に流され、きれいな川面に映り、私がいて妻がいて、さらに多くの人たちがいるという、そんな風景にとても感動しました。その感動を自分が体験できたのは、大勢の方々が自分を育て、支えてくださったからだと思います。

風景は視覚で捉えるわけですが、その情報が脳に入るだけでは、感動は生まれないと思います。爽やかな風は気持ちがいいですよね。また懐かしい匂いや味で、せつない気持ちになったことはありませんか。心が平安であると感受性も増しませんか。

風景があり、水の音がして、風を感じ、1000年前に同じ風景を見ていた人の気持ちを想い、妻との旅行で、私のなかに感動が生まれたわけです。御手洗場という場所が維持されているからこそ、そして私が育てられ支えられているからこそ、すなわち日本社会があってこそ、私は感動することができたと思うのです。そのような日本は長い時間をかけ大勢の人々により、つくられてきました。私たちは、そんな日本を受け継いでいるわけです。犬でも、お伊勢参りができるような、それを実現させる心をもつ人々が住む日本を誇りに思います。今を生きる日本人として、受け継いだからには、受け渡したいと思っています。

人々の心を含めて文化や社会は、保存できるものでありません。写真や文学で、その一面を伝えることはできるでしょうし、法律や制度に反映させることもできます。しかし、文化が失われた後では、再構築には長い年月と偶然が必要でしょうし、必ず再現されるとも言えません。

文化や社会は人々の営みに日々の暮らしのなかで継承

文化や社会は人々の営みです。大勢の人々が生きてゆくなか、継承されるもので、それでしか維持する方法はないと思います。私たち一人ひとりが日々の暮らしのなかで、自分のなかに受け継がれている“先人が大切にしてきたもの”を感じ取り、守ってゆくことで、人の営みが受け継がれ、その心が受け渡されるのだと思います。

徳洲会は、理念に沿うことなら職員がやりたいことを応援してくれる組織です。3万2000人余の仲間がいて、できることはいっぱいあります。徳洲会グループの仲間とともに、当院が属する埼玉医療生活協同組合の、そして当院の職員とともに、さらに地域の方々とともに、私にできることを精いっぱいやろうと思っています。お読みくださり、ありがとうございました。

未来を生きる子孫たちが、自分の住む国を誇りに思うことができるように。やりたいことに挑戦できる社会であり続けるために。未来を創るのは、今の私たちです。皆で頑張りましょう。

PAGE TOP

PAGE TOP