直言
Chokugen
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直言 ~
中川 秀光(なかがわひでみつ)
野崎徳洲会病院院長(大阪府)
2018年(平成30年)11月19日 月曜日 徳洲新聞 NO.1160
近年、医療の質や安全性の向上に対する意識が高まっています。具体例として、学会の設立、医療安全管理者の育成、医療安全管理学に関する大学院の設置、国の包括医療費支払制度(DPC)での治療データの把握、学会の手術症例の電子登録など枚挙にいとまがありません。
米国においては、医療の質の評価は、A:連邦政府や州政府による公的規制、B:医師や医療機関による自主規制、C:第三者民間評価認定組織による外部評価――の3グループで行われています。
Aは医師免許審査会、懲戒委員会、メディケアPRO(医療査察)、全米医療従事者データバンク、臨床と経営の包括審査であるマルコム・ボルドリッジ国家品質賞があります。Bは病院利用権審査制度、医療の質の改善に関する法律(HCQIA=Health Care Quality Improvement ACT)やMedical Staff Bylaws による同僚評価ピアレビュー。Cは最大の加入病院数を誇る医療組織認定合同委員会(JCAHO:Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organization、現Joint Commission)など民間の7つの審査委員会があり、これら3グループが絡み合って医療の質が審査されています。
こうした医療環境の日本への波及も予測され、現在の徳洲会ピアレビューとは違った形のシステムを、国が制定する可能性が十分にあります。
徳洲会は多くの優秀な医師を配し、国内での救急医療、離島・へき地医療、海外での医療支援など国内外の医療に対し、多大な貢献を行ってきました。しかし、広く国民目線では必ずしも評価が一定しているとは言えません。
徳洲会によるピアレビューシステムの実施は、国内でも先駆的な取り組みです。徳洲会のピアレビューは、グループ病院の「手術手技に対する評価」を行い、医療の質や安全性の向上を図ることを目的としています。術式の難易度や手術時間、手術時の合併症など評価項目を客観的な基準でポイント化し、合計点で評価します。
徳洲会が医療安全と質の向上に真摯(しんし)に取り組み、こうした姿勢を発信することは重要なことと考えます。現に脳神経外科部門のピアレビューが良い結果をもたらしている事実があります。
昨年4月に徳洲会脳神経外科部門でピアレビューが始まり、約1年半が経ちました。種々の修正の後に、脳外科以外にも心臓血管外科、外科、整形外科、泌尿器科、産婦人科、消化器内科、眼科、循環器内科の8科を加え、計9科のピアレビューを計画するに至りました。
同時に各科の評価委員会事務局を、全国8カ所の徳州会病院に設置していただきました。
ピアレビューの流れは次のようになっています。まず、徳洲会インフォメーションシステム(TIS)で、それぞれの病院の評価項目に関するデータを抽出します。その後、データは各科の評価委員会事務局に送られ、事務局から各病院に不確定データの修正依頼を行います。修正後、再度、TISに送付し、あらためてデータ抽出を行い、各科の評価委員会事務局に全国のグループ病院のピアレビュー結果のデータを送ります。
各病院、とくに評価委員会事務局を設置している病院の事務負担が課題となっています。
消化器内科や循環器内科は手術時間の項目を設けていないため、比較的に少ない負担ですみます。また、これらの科は徳洲会の中央値の2倍あるいは2分の1以下の症例は外れ値として除外することとなっており、その精査が必要でなくなるため、ほぼTISによる1回目のデータ抽出で終わります。一方、心臓外科、脳外科、外科、とくに外科は事務負担が重い状況です。
事務処理の慣れにともなって解決されると考えますが、いずれにしても、評価委員会事務局を現状のままとするか、あるいは野崎病院に置くか、徳洲会東京本部に置くかは今後、検討しなければなりません。
事務処理方法が周知徹底されていない点も課題です。現在、各科評価委員会事務局の方々が、当院事務局を訪問され、事務処理方法を習得中です。近々、徳洲会グループピアレビューが一斉にスタートしますので、ご期待ください。
皆で頑張りましょう。