直言
Chokugen
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直言 ~
篠崎 伸明(しのざきのぶあき)
医療法人沖縄徳洲会副理事長 湘南鎌倉総合病院院長(神奈川県)
2018年(平成30年)10月29日 月曜日 徳洲新聞 NO.1157
1988年11月、湘南鎌倉病院(現・湘南鎌倉総合病院)が開設され、今年で30年が経ちました。当時から鎌倉市には市民病院がなく、10日間で約8万6000人の病院開設要望書を鎌倉市民からいただき、368床の旧病院が誕生しました。以来、「救急は断らない」を愚直に実践しています。8年前に手狭になった旧病院から新築移転し、今は許可病床648床の高度急性期総合病院となっています。
昨年度の救急搬送受け入れ人員数は1万3000人超と、全国の救命救急センターで1番になりました。開院当初から循環器科の齋藤滋先生(現総長)は、心臓冠動脈の風船治療であるPTCA(経皮的冠動脈形成術)にいち早く取り組み、今もなお次々と新たな治療法に挑戦しておられます。
95年、国内初の日帰り手術センターを開設。多くのメディアの取材を受けました。NHKテレビの朝7時のニュースでは、2回も生放送で取り上げられたほどです。現在、日帰り手術は年間約5000件に上り、当院の手術件数の半数近くを占めています。年間退院患者数は約2万3000人、手術件数は年間1万件以上です。
10年前より、がん治療にも力を入れ始め、新規がん登録患者数は年間2200人に届こうとしています。また再生医療分野では、重症下肢虚血の透析患者さんに対する血管再生治療が、先進医療申請に向けて成績を上げています。また新たに急性腎不全に対する臨床研究もスタート。今後、脊髄(せきずい)損傷に関する臨床研究も計画しています。
2020年に開設予定の湘南鎌倉先端医療センターでは、神奈川県初の陽子線治療、中性子線治療(BNCT)に取り組む方針です。さらに標準治療はもとより、多くのがん難民の方々の受け皿になるための医療を進めていきたいと考えています。
また、早期探索臨床試験センターを併設し、ベンチャー企業と共同で希少疾患、難病対策への貢献を行う予定です。隣接する武田薬品工業の湘南ヘルスイノベーションパークという研究拠点と連携、PET(陽電子放射断層撮影)機器を利用しマイクロドーズ試験(核種で標識したごく微量の薬剤を用い、生体内での薬物動態を調べる試験)も計画中です。当院と湘南ヘルスイノベーションパークはステークホルダー(利害関係者)として、各分野でベンチャー企業と協力し、イノベーション(革新)を共同発信していきます。
当院は基礎研究から臨床現場への橋渡し研究(トランスレーショナル・リサーチ)にかかわることを期待されています。たとえばICT(情報通信技術)の医療業界への適用、さらにAI(人工知能)の開発など、多くのベンチャー企業と共同研究開発を行うことになります。これらを、いち早く臨床応用することで、徳洲会グループの離島・へき地病院の勤務医らの負担軽減につながることでしょう。
現在、当院では133件の臨床研究と50件の治験が進行しています。4月には医療法人沖縄徳洲会が民間で初めてとなる認定臨床研究審査委員会の設置を認められました。今後、未承認や適応外の薬剤・医療機器を用いた臨床研究も積極的に行う計画です。さらに、査読のある英語論文掲載数も昨年は40編を超え、「特定機能病院」の承認取得も現実味を帯びてきています。
徳洲会グループの一員として、患者さんのために職員が一丸となって新しい事柄に取り組む文化が当院にも脈々と流れています。これまで失敗を恐れず果敢に挑戦し、多くの成功体験を得てきました。つねに患者さんの目線に立った医療サービスとして、新しい価値の創造に取り組んでおり、これからも安全、安心を目指し、信頼される医療を展開し、患者さんの体験価値を高めていきたいと考えています。
引き続き当院はグループの旗艦病院として、徳洲会の原点である離島・へき地医療を支えるとともに、さまざまなイノベーションを発信していく覚悟を新たにしなければなりません。今年は鎌倉市医師会、神奈川県病院協会にも入会し、開設30周年に花を添えることができました。今後もグループはもとより、地域の皆様のご指導、ご鞭撻(べんたつ)をいただきながら、次世代の人材育成に注力し、次の30年をさらに発展させていくことを追求していきます。皆で頑張りましょう。