徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP 45th

直言

Chokugen

寺田 康(てらだやすし)(庄内余目病院院長(山形県))

直言 生命いのちだけは平等だ~

寺田 康(てらだやすし)

庄内余目病院院長(山形県)

2018年(平成30年)5月14日 月曜日 徳洲新聞 NO.1133

へき地研修で感じ取れた若い医師の
繊細な感性を消し去ってはいけない
庄内町の老老介護の現実に都市とのギャップ

徳洲会は人材の宝庫です。とくに各病院の院長は個性派ぞろいのうえに日頃から苦労しているだけあって、彼らの言葉には心に響くものが多々あります。

「根拠のない自信と空元気」、「限界の少し先に真実がある」。新しい事に挑戦する時、この言葉を自分に言い聞かせ、自らを叱咤激励しています。「逆風も振り向けば追い風」、「飛行機は向かい風を利用して離陸する」。苦しい時こそ、逆転の発想が必要です。「討って出よ。城に籠城して生き延びた戦国大名はいない」。追い詰められた時こそ、攻めの積極策が大切です。「神輿(みこし)に乗るな。自分の足で歩け」、「率先垂範」、「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」。調子の良い時こそ、謙虚で、現場主義を忘れてはいけません。

生まれも育ちも経験も、赴任した土地の風土も歴史も異なる各病院の院長が、ともに徳洲会の理念の下で仕事をし、それぞれが発する数々の示唆に富んだ言葉に触れることができる自分の人生は、人の何倍も面白く豊かだと思っています。

お爺さんの頭皮にまで褥瘡 研修医の表情忘れられない

地域医療研修で初期研修医と出会い、一緒に仕事ができることも楽しみのひとつです。

雪が溶け、5月になって田植えが始まる頃のことでした。代搔(しろか)き(田に水を張り、土を砕いて平らにならす作業)の田んぼに吹き渡る風は庄内の春の清々しさを感じさせます。しかし、その時、当院で研修していた沖縄県出身の研修医はひと言、「寒いっす」。彼は沖縄に比べ、あまりの寒さに我慢できず、長袖の服を買いに行ったそうです。

生まれ育った環境を考えれば、そう感じるのは当然のことかもしれません。ただ、臨床の場でたとえれば、この「寒いっす」は科学的な表現ではありません。医学は自然科学、たとえ、へき地であっても研修はできるのです。へき地医療は三流かつ諦めの医療では決してありません。2カ月間の研修の結果、この研修医は「寒いです。私が長袖を買いに行った日の庄内地方の最高気温は9℃で、これは(同じ年の)沖縄県の真冬の最低気温より、まだ低いのです」というようなプレゼンテーションができるようになりました。

また関西の病院から来た研修医が訪問診療に行った時のこと。庄内には土地がたくさんあるため、屋敷のような家で暮らしている方が少なくありません。その患者さんの家も大きかったのですが、人気がなく、看護師は勝手知ったる玄関を開けると、声もかけずに、どんどんと家の中を進んで行きました。

すると奥の八畳間のベッドにお爺さんが寝かされています。看護師が慣れた様子で、寝間着をはだけさせ、さっさと血圧、脈拍、体温を計測し始めると、猫が1匹、廊下から部屋に入って来ました。やがてコツコツと音がしたと思ったら、今度は腰が90度曲がった小さなお婆さんが杖を突いて部屋に入って来ます。お婆さんは、お爺さんのはだけた寝巻の間から胃瘻(いろう)の管を引っ張り出し、注入器で栄養剤を注入し始めたのです。

聞くと、お婆さんひとりではお爺さんの寝巻をはだけさすことができないため、人手のある時に栄養剤を注入しているとのこと。体位交換など、とんでもなく、何とお爺さんの頭皮には褥瘡(じょくそう)ができていました。お婆さんひとりでは、お爺さんの頭の位置すら変えられないのです。

こんな状況を驚きながら話す研修医の表情を、今も忘れることができません。

「国が進める在宅医療は裕福な人たちのため?」

高齢化率23%の東京にある中央官庁が考える高齢者医療と、高齢化率35%の庄内町の高齢者医療には、研修医が驚愕するほどのギャップがあるのです。

この研修医は関西の病院でも訪問診療の経験があり、その時に訪ねた家には、お手伝いさんがいて、患者さんは4~5人の家族に囲まれていたそうです。当院の訪問診療を体験して、この研修医は「国の進める在宅医療は、経済的にも環境的にも余裕のある裕福な人たちのための医療ではないか?」と疑問を投げかけていました。

徳洲会は「いつでも、どこでも、誰でもが最善の医療を受けられる社会の実現を目指す」ことを標榜(ひょうぼう)しています。へき地研修での医療現場で感じ取れたひとりの若い医師の繊細な感性を、徳洲会が組織の大きさ故に消し去ることがあってはなりません。

若者も年寄りも力を合わせ、皆で頑張りましょう。

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