直言
Chokugen
Chokugen
直言 ~
藤田 安彦(ふじたやすひこ)
徳之島徳洲会病院院長
2017年(平成29年)5月1日 月曜日 徳洲新聞 NO.1080
徳之島徳洲会病院(鹿児島県)は徳洲会のシンボル的な存在であり、1986年10月1日に開院し、歴代の院長、職員、住民の方々、応援の先生方、行政の方々の血の滲(にじ)むような努力と愛情によって支えられてきました。
上山泰男(かみやまやすお)前院長(現・瀬戸内徳洲会病院院長)の時代に、産婦人科常勤医師が不在になる時期がありました。この時、「徳之島の将来の医療・福祉を考える会」がさまざまなアプローチで、鹿児島県産婦人科医会、鹿児島市立病院、鹿児島大学医学部産科婦人科学教室、鹿児島県庁保健福祉部子ども福祉課などに働きかけ、徳洲会グループ内では産婦人科の先生方や院長会などが広報活動を展開しました。
こうした懸命な努力により、最終的に2人の医師が2014年4月1日に赴任することになり、徳之島でお産が継続可能となったため、島民の方も安心して暮らせるようになりました。
開院から30年以上経過し、建物もかなり老朽化が進んでおり、配管の腐食や水漏れによって甚大な被害も起きています。そろそろ建て替えの時期が来ています。職員の平均年齢も高齢化してきており、徳洲会文化を継承して次世代にバトンタッチするためには、新築移転が必要です。
最新の医療機器をそろえることは必要条件ですが、住民の方に愛され、信頼される病院になるには、人材を集め育てていくことが院長の責務のひとつです。
医療の進歩や少子高齢化の荒波のなか、いかに地域に根差した医療を展開していけるか――そのことを職員一人ひとりが考え、知恵を絞り徳之島にふさわしい病院を建てるという気概をもって、新病院計画を進めていきたいと考えています。
徳之島の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に生む子どもの数)は、全国でもトップクラス。伊仙(いせん)町1位(2.81人)、徳之島町6位(2.18人)、天城(あまぎ)町10位(2.12人)ですが(厚生労働省、08~12年)、島外に出る若者も多く、高齢化が進んでいます。島の人口は2万3544人(4月1日現在)です。
今年3月、奄美群島などが国立公園に指定され、来年以降、世界自然遺産に登録される可能性が高くなりました。大変嬉しいことですが、今後の課題は、いかに人口を増やし、魅力ある島にしていけるかです。将来は医療系学校を創設し、高校卒業後も島で進学できる環境をつくりたいと考えています。
当院の過去5年の死亡統計を見ると、40歳代では循環器疾患が死因の第1位(55%)、50歳代ではがんが第1位(19%)、60歳代もがんが第1位(42%)です。40歳代では全国の4倍以上、50歳代、60歳代では全国と同様に、がんが1位となっています。徳之島は“子宝の島”である一方、早世(夭折(ようせつ))の島という傾向が表れていることを私は危惧しています。とくに若い世代は高タンパク・高脂質食が体を蝕(むしば)んでいるのが実情です。運動不足を解消しながら、健康寿命を延ばす努力が必要です。健康な人が増えれば、若い世代に負担をかけず、高齢化社会がより良くなるはずです。したがって、予防医療、健診、予防接種、妊婦健診、乳児健診、医療講演などに注力していきます。
高齢人口が増え独居で暮らす人も多くなるため、今後、認知症に対しどういう支援をしていくかが課題として挙げられます。
徳之島は従来から、お互いに助け合いの精神が強く、愛郷心も高い島です。これからの時代も、この「結(ゆ)い(人と人が信頼し合い、ともに何かを創造する共創)の精神」を大事にしていくことが不可欠です。このためには行政や病院、職員、住民の方々が一緒に地域の医療、教育、福祉を支えていく体制づくりが求められます。つまり、安心して働ける環境づくり、医師、看護師、助産師、保育士、コメディカルなどの確保、子どもの発達・教育を支える環境などの整備が大変重要になります。
医療費の増加により、国は病床数を減らし在宅医療を推進しています。国民の負担は着実に重くなってきていますが、当院の存続は国民皆保険によって成り立っている部分もあり、こうした時代の流れに対し“企業努力”を活発化しなくてはなりません。島民の方々の健康と医療の質を保つための責務が、私たち職員の肩にかかっていることを自覚してほしいと願う次第です。皆で頑張りましょう。