徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

福島 安義(ふくしまやすよし)(一般社団法人徳洲会副理事長)

直言 生命いのちだけは平等だ~

福島 安義(ふくしまやすよし)

一般社団法人徳洲会副理事長

2016年(平成28年)9月19日 月曜日 徳洲新聞 NO.1049

フィスチュラ病院は治療から生き方に
まで及ぶ究極の総合診療の実践に努力
日本の若手医師に同院での研修を勧めたい

今回、エチオピア、ジブチ、タンザニアの東アフリカ3カ国を訪問する機会を得ました。最初の訪問国はエチオピアで、アディスアベバ・フィスチュラ病院の見学とハムリン財団から要請のあった手術用鋼製小物を寄贈するのが目的です。

同院は、産婦人科医の私がどうしても訪ねたい施設で、ともに産婦人科医のハムリン夫妻が、悲惨な産科瘻孔(ろうこう)患者さんを救うべく1974年に設立。

産科瘻孔とは未成熟な少女が妊娠し、それも産婦人科医や助産師のいないところで、村人の助けのみで陣痛開始から何日間もかけて分娩(ぶんべん)。その結果、産道に孔(あな)が開き、傷が膀胱(ぼうこう)や直腸にまで至り、膀胱膣瘻(ちつろう)や直腸膣瘻を引き起こす疾患です。産科瘻孔の患者さんは、尿や便が垂れ流し状態となるため、悪臭を放ち、家族からも疎(うと)まれ、友人は去り、社会に拒絶されるというとても悲惨な状況に置かれているということです。

こうした患者さんたちを、同院は交通費を含め無償で治療し、病院開設以来、約5万例の手術を実施。現在はエチオピア国内に同院を含め6カ所にセンターを設け、昨年は約2000件の産科瘻孔の手術を行ったそうです。そして、FIGO(世界産婦人科連合会)のトレーニング機関として瘻孔の手術を医師たちに伝える努力もされています。

助産大学を設立し無医地区へ送り込んで産科瘻孔など防ぐ

ハムリン夫妻が素晴らしいのは、手術による治療のみならず、悲惨な経験をした患者さんの心のリハビリを行い、教育を受けさせ、生きるために必要な手芸や農業など手に職を付けさせ、自立を促している点です。同院で働く多くの方々が、手術で立ち直った方たちで、生き生きと働いていました。

産科瘻孔という病気はきちんと診断を受け、産婦人科医や助産師の管理下で分娩できれば、必ず減らせます。

エチオピアの人口は約9700万人ですが、国全体で産婦人科医は250人、助産師も7000人に満たないと言われています。場所によっては人口約2000万人に対し、産科を扱う病院が3カ所しかない地域もあるそうで、夫妻はこの状況をふまえ、まず助産大学を設立し、多くの助産師を養成して無医地区に送り込むことで、悲惨な分娩中の死産や産科瘻孔を防ぐ努力をしています。

同院創設者のキャサリン・ハムリン夫人のご主人は他界されましたが、夫人は93歳とご高齢ながらも、背が高く実に上品な方で、「産科瘻孔が、いかにひどいものかを世界の人々に訴えたら、皆が助けてくれました。ひとりではできません。多くの協力者があってのことです。夫と手術を続けるうちに、多くの患者さんが来られました。夫はとても優しい人で、その人たちを見捨てることはできなかったのです」と話されました。

ハムリン夫妻が取り組まれてきたことは、病気の治療から生き方にまで及ぶ究極の総合診療だと思います。日本の若い先生たちに、ここでの研修を勧めたいと思います。私たち徳洲会グループの医師で研修を希望する者に研修をさせていただきたいとお願いし、訪問を終えました。

徳洲会で研修を受けた医療者 現地で頑張る様子に頼もしさ

実は同院の訪問を終えた頃から、私に異変が出てきました。不整脈のひとつである期外収縮を多発するようになったのです。疲労が原因と考え、ゆっくり寝れば大丈夫と思いましたが、夜中に期外収縮の多発で目が覚める事態となり、何とも気持ちの悪い夜を過ごし、翌日ジブチに向かいました。

ジブチの循環器の専門家に相談したいと思い、受診の希望を現地関係者に連絡。ところが、これが大袈裟(おおげさ)なことになり、何とホテルに救急車が来てしまったのです。外国で初めて救急車に乗り、ジブチのCNSS(社会保険基金)付属診療所に搬送されました。

救急室のスタッフは湘南鎌倉総合病院で研修した人たちで、「以前は何もなかったのに、今は小ぶりの湘南鎌倉病院ER(救急外来)みたいでしょう」と自信ありげに話していたのが頼もしく、研修の効果が出ていると感じ、喜ばしく思いました。

海外から研修生を引き受ける徳洲会グループの施設は、いろいろと苦慮することもあるかと思います。しかし、研修を受けた方々が自国で頑張っていますので、これからも快く引き受けてあげてください。

皆で頑張りましょう。

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