2016年(平成28年)5月16日 月曜日 徳洲新聞 NO.1031 四面
名古屋徳洲会総合病院
口腔顔面リハ確立へ
理学療法士と歯科医が連携
名古屋徳洲会総合病院はオロフェイシャルペイン(口腔(こうくう)顔面痛)に対する治療法のひとつとして「口腔顔面リハビリテーション」の確立を追求している。理学療法士(PT)が中心となり、大垣徳洲会病院(岐阜県)や地元の歯科医師と連携。2013年には研究会を立ち上げ、年に複数回開催、歯科医師をはじめ歯科衛生士や言語聴覚士(ST)などが参加している。活動の中心的な役割を担う名古屋病院の木村陽志PTは「多職種による包括的な治療を行い、頚(けい)部から上部に関する原因不明の痛みや機能障害に悩んでいる患者さんを助けたい」と意欲的だ。
大垣徳洲会病院も研究会に参加
口腔顔面リハの確立を目指す研究会のメンバー。(左から)竹岡PT、神野部長、池田顧問、木村PT
口腔顔面痛は抜歯後などに生じる口腔や顔面領域での原因不明の疼痛(とうつう)の総称。具体的に、歯や歯周組織、舌、目、鼻、耳、顎(がく)関節部などに痛みをともなったり、口が十分に開かなかったりする。原因が特定できないため、さまざまな医療機関で治療を受けるものの改善が見られないケースが多い。また、一般的に女性に多く見られるという。
名古屋病院では同疾患に対する治療法を確立するため、木村PT、竹岡義博PTらが中心となり5年前から「口腔顔面リハビリ」の研究に着手。首筋から上部に起こる原因不明の痛みを軽減・解消するとともに、嚥下(えんげ)や舌などの「機能を回復させる」ことにも注力している。
きっかけは木村PTが顎関節症を患ったこと。「食事ができず大変苦労しました。当時、当院の神野洋輔・歯科口腔外科医長(現・大垣病院歯科口腔外科部長)に診療していただくなかで、神野先生がリハビリによる治療に着目されているのを聞きました。その後、竹岡PTが入職し、海外では歯科とPTが連携を図って治療している様子を聞いたこともあって、口腔顔面リハビリに関心をもちました」。
PIR という手法を用い、顔面の筋肉に軽い収縮を加える
木村PTらは、主な原因が筋肉にあると考え理学療法を実施。口腔顔面痛と診断された患者さんの口まわりの筋肉をほぐし、ゆっくりと口の開閉動作を促す。また、疼痛緩和などの効果が期待できる理学療法のテクニックのひとつ「PIR」を活用し、顔面の筋肉に軽い収縮を加える。
その際、歯に手を当てて口を開閉させるほうがより筋肉の収縮につながりやすいが、口の中に手を入れることに抵抗感を覚える患者さんもいることから、信頼関係を築いたうえで行うようにしている。その結果、痛みの軽減・解消につながったことから、研究を本格化。木村PT、竹岡PTは神野部長と連携を図り2013年に「口腔顔面リハビリテーション研究会」を設立した。
竹岡PTが会長、木村PTが事務局長、神野部長とJICA(国際協力機構)専門家としてコンゴ民主共和国の保健アドバイザーを務めたことなどで知られる池田憲昭・歯科医師が顧問に就き、年に複数回会合を開催。
回を重ねるにつれて参加者は増え、現在は平均約30人が出席。職種も歯科医師、歯科衛生士、作業療法士、PT、STと多彩だ。症例検討や評価法の統一などについて、議論を交わす。
さらに今年度から「MPS研究会」とも連携。同研究会は筋肉が原因で痛みやしびれを引き起こす筋膜性疼痛症候群を研究し、歯科医師も数多く参加しているため連携することを決定したという。木村PTは「交流することで、お互いに得られるものがあると感じました。今後、交流を深めていきたい」と意欲を見せる。
歯に指を当てて口を開閉させる。患者さんとの信頼関係が不可欠
こうした取り組みを踏まえ、木村PTらは口腔顔面リハビリについて積極的に論文化。「筋肉の痛みに着目した論文を学会などに投稿し、生活習慣との関連性などをテーマにした研究を進めています。日本口腔顔面痛学会の学会誌に採用されるなど、認められつつあると感じています」(木村PT)。
同院では臨床研究も視野に入れ、今後も研究を進める方針。木村PTは口腔顔面リハビリ研究会の体制強化とともに、新たな連携先の創出も検討しているという。
「コアメンバーを増やしたり会員制を導入したりするなど、組織の基盤を固めたいと考えています。連携先については、近くの鍼灸(しんきゅう)治療院に顎関節症に悩む患者さんが来られるそうなので、従前とは違う機関も考えていかなければなりません」(木村PT)
臨床的に確立し、最終的には口腔顔面リハビリが保険収載されることを目標に掲げる木村PT。「少しずつ形になっている」と手応えを示し、「痛みに悩む患者さんをひとりでも多く救えるように、医療従事者で興味のある方は当研究会にぜひ参加してください」と呼びかけている。