直言
Chokugen
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直言 ~
清水 正法(しみずまさのり)
大和青洲病院院長
2015年(平成27年)12月7日 月曜日 徳洲新聞 NO.1009
わが国は世界に例を見ないスピードで高齢化が進み、団塊の世代が75歳以上になる2025年には、後期高齢者が全人口の30%を超えると予想され、「2025年問題」と称されています。高齢化にともない、さまざまな疾病や認知症が発生し、病院入院や介護施設入所が必要な高齢者が増加します。人口の集中する都市部では将来、入院・入所のための施設が大幅に不足すると予測されています。
また、医療費・介護費の増大は必定です。医療費と介護費の抑制は厚生労働省にとって喫緊(きっきん)の課題となっており、16年度の診療報酬改定でも、その方針は、より強く明確に示されることでしょう。他方、医療費抑制の大きな戦略的方針が00年に発足した介護保険制度です。その基本方針は「医療から介護へ」です。さらに「施設から在宅へ」と展開していきます。
要介護状態になっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう医療、介護、予防、住まい、生活支援を一体的に提供する仕組みが「地域包括ケアシステム」。医療や介護の提供だけでなく、高齢者が要介護状態になるのを防ぐのも重要です。
高齢者は閉じこもりになると、身体活動が衰えるだけでなく、認知症になりやすいと言われています。地域の自治会、老人クラブ、ボランティア、NPOなどの協力で、レクリエーションへの参加を促し、身体的機能の退行や認知症の発症を防ぐことができます。
さて、大和青洲(やまとせいしゅう)病院の位置付けですが、当院は首都圏にあり、東京都への通勤圏ということもあって、今後も人口の増加と同時に高齢化の進展が見込まれる地域です。加齢にともなうADL(日常生活動作)の低下により、通院できなくなる患者さんは年々増加、やむなく介護施設に入所しなければならなくなる例が年に相当数、発生しています。近隣の居宅介護支援事業所との連携を深め、訪問診療、訪問看護を広げ、住み慣れた環境で療養を続けていけるようサポートしなければなりません。
大和市が14年に65歳以上の高齢者を対象に実施した調査結果によれば、高齢者は①住み慣れた住居で最期まで自分らしく暮らしたい、②要介護状態になっても自分にできることで社会に役立ちたい、③人との交流を大事にし、そのために気楽に過ごせる場所がほしい――という欲求を潜在的にもっていることがわかりました。認知症対策として行政に求めることとしては、第一に認知症の早期診断と治療ができる体制の確立、第二に高齢者の見守り、第三にグループホームや介護施設の整備です。
神奈川県央地区には、徳洲会グループの大和徳洲会病院、当院、湘南厚木病院と3院あります。しかし、介護施設は介護老人保健施設リハビリケア湘南厚木しかありません。
慢性期患者さんの退院後は、近隣の介護事業者と連携しながら訪問診療、訪問看護を積極的に展開し、できるだけ在宅での療養をサポートすることが求められます。当院が入院透析を実施しているのは、通院が困難な方のためにほかなりません。
それでも要介護度が進むにつれ、あるいは家庭環境などの理由で、どうしても在宅療養が困難な方が出てきます。そうした方たちのためにも、入所できる施設の整備が急務です。
特定高齢者(近い将来、要支援・要介護になる可能性のある65歳以上の方。市区町村が選定)の介護予防も重要です。このためには高齢者が気楽に過ごせ、レクリエーションなどを通じて社会参加、身体活動ができる場が必要です。こちらは近隣のビルの空き室や空き家を利用することで実現可能でしょう。
最近、私たちの認識を覆(くつがえ)す知見が、国内外の研究結果や各施設の経験から相次いで報告されています。そのひとつに、認知症があっても周りの支えがあれば、その人らしく最期まで人生を全うできるというものがあります。そして前述した大和市の調査にあるように、高齢者が本当に求めているのは、支えられる存在から支える存在として認められることなのです。
老いることや認知症の研究は始まったばかり。今、私たちに求められていることは、既存の観念にとらわれることなく、謙虚に高齢者から学ぶことです。
皆で頑張りましょう。