
直言
Chokugen

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直言 ~
小山 豊(こやまゆたか)
医療法人社団 森と海 東京 東京蒲田病院 院長
2026年(令和8年)04月06日 月曜日 徳洲新聞 NO.1537
当院は東京23区最南端の大田区にあります。羽田空港を擁し品川区に隣接することからも、空路・陸路ともにアクセス至便なこの地は、現在、約75万人の人口のうち、65歳以上の高齢者が約20万人、認知症患者は数万人に達するとされる超高齢化の医療最前線でもあります。医療資源の面では、当院からわずか2㎞圏内に大学病院が1施設、大規模な総合病院が4施設、さらに当院と同規模の病院が3施設もひしめき合っています。10年前、私が院長に就任した時、この病院過密地域で、いかにして生き残るか、地域に貢献するか、そして共に働くスタッフをいかに幸せにするか、その答えを求め、死に物狂いで模索するところから始まりました。
これほどの病院過密地域において、総合病院と同じ土俵で戦っても歯が立たないことは明白です。そこで、現有戦力で実践可能な医療を最大の強みとし、地域のためにフルファイトの医療をと考えました。幸いにも当法人の井上直人理事長と私は、心臓カテーテルの専門医でしたので、循環器診療、とくにカテーテル治療においては大規模病院に負けない質を提供する自負がありました。患者確保の源泉は救急医療と位置づけ、循環器だけや都合の良い時間だけといった選別なく、いかなる救急も断らないというポリシーを徹底しました。これを継続することで、現在は循環器疾患だけでなく全救急症例数の増加につながっています。
さらに私自身は開業医の先生方への挨拶回りはもちろん、医師会の行事に積極的に参加しロビー活動を積み重ねました。幸い私が医師会の理事に就任したタイミングで、より多くのイベントに参加する機会が増え、地域の先生方との顔の見える連携を構築できました。3年前には地域特性に合わせ「循環器・整形外科・高齢者医療」を診療の3本柱とすることを明確に宣言しました。トップが方針を言語化することで、スタッフ全員の意識が統一され、たとえ認知症の患者さんが増えても、現場が迷いなく、不平不満を漏らさずに診療に邁進できる強靭な組織文化が醸成されたと確信しています。
当院の許可病床数は180床です。これは単なる数字ではなく、180人の患者さんを支えるために必要なスタッフが、ここに集っているという責任の証しです。経営の理想は常に満床に近い状態を維持することですが、それは時に、現場に180人以上の入院を受け入れる負荷を強いることも意味します。私はスタッフに対し、優良経営の条件は、可能な限り平均180床で運営することである必要性を、数字の裏側にある意味も含め丁寧に説明しています。ベッドコントロールに苦心する時期があったとしても、その忙しさは病院を支える貢献として受け止め、一人ひとりが経営の一翼を担っているという共通認識を持つことが重要です。病院を支えるスタッフと共に健全経営を維持し、組織運営の重みを分かち合うことができて初めて、賞与や環境改善という最大限のリターンを提供し得ます。この“貢献と還元の循環”こそが、優良経営の正義であると信じています。
常に私たちが大切にしていることは患者さんファーストの精神です。高い診療レベルは大前提ですが、この病院過密地域で患者さんや紹介医の先生方に選ばれ続けるためには、心のこもった医療サービスが不可欠です。相手の目を見て相手を思いやり、すべての行動の判断基準は患者さんの利益に置くこと。紹介医にも当院を選んでいただいた喜びを、患者さんと分かち合っていただかなければなりません。笑顔で挨拶、笑顔で声かけ、一人ひとりの表情や態度が今後の患者増につながる。つまりスタッフ各人が経営に参画し病院発展を担っているのです。
しかしスタッフに無理な笑顔を強いることはできません。私の使命はスタッフの笑顔を増やすことです。院長がスタッフを幸せにし、スタッフに笑顔が増える、その笑顔を患者さんに提供し患者さんを幸せにする。この連鎖が実現した時、病院はさらなる発展を遂げ、必ずスタッフに大きなリターンがあると確信しています。
これからも、スタッフの笑顔と共に病院経営を発展させる“フルファイトの医療”を継続してまいりたいと思います。皆で頑張りましょう。