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  • 患者さんの人生や背景にどのように 寄り添うかは医療者がもつ感性次第 AIは優秀な「共演者」だが指揮棒を握るのは人～医療法人徳洲会 専務理事 湘南鎌倉総合病院(神奈川県) 院長 小林 修三（こばやししゅうぞう）～
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2025年（令和7年）10月14日　火曜日 徳洲新聞 NO.1513

患者さんの人生や背景にどのように
寄り添うかは医療者がもつ感性次第
AIは優秀な「共演者」だが指揮棒を握るのは人

近年、医療現場にも急速にデジタル化の波が押し寄せています。病歴作成や医学診断、推奨する治療法までにも対応し、医療安全や質の向上に寄与していますが、その便利さの裏側で見落とされがちなものがあります。それは人間同士が向き合うことでしか得られない「アナログな情報」です。たとえば患者さんが椅子に腰掛けるまでのゆっくりとした動作、声の震え、会話の途中の沈黙の長さ──こうした要素は電子カルテには記録されません。AI(人工知能)が分析する画像や数値ではわからない、かすかな変化や心の揺らぎこそ診断の手がかりとなるはずです。

楽譜を心に響く音楽へ変える力　感性を磨いた優れた演奏家の証

楽譜は音楽の情報をきれいに整理した「デジタル」のようなものです。音の高さ、長さ、強弱、テンポが記号化され、誰が見ても同じ情報を共有することができます。しかし、楽譜だけでは本当の音楽は響きません。同じ楽譜を演奏しても、演奏者の呼吸や間の取り方、指先の微妙なタッチ、感情のこもり具合によって、聴く人の心への響きは全く異なります。「楽譜を音楽に変える力」こそ、優れた演奏家の証です。医療も同じで、デジタルだけでは心に届く診療は成立しません。

これからの医療者はデジタルを最大限に生かしつつ、アナログの感性を磨き続ける必要があります。AIや機器は優秀な「共演者」には違いありませんが、指揮棒を握るのは人間です。医療も同じで、検査データや診療記録という「楽譜」があっても、それをどう読み取り、どう患者さんの人生や背景に合わせ「奏でる」かは、医療者の感性次第です。デジタルは情報を正確に伝える手段にすぎません。それを患者さんにとって意味ある医療に変換するのが、人間なのです。デジタルは正確で均一ですが、人間のアナログは温かく多様です。

ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロは言います。「人が人に会って感情を直接伝え合うことで、社会は成り立っている。そこに文学や芸術が存在する」と。AIは私たちの時間と労力を節約し、より患者さんと向き合うための余白を生み出す可能性を秘めています。画面の前で数字と格闘するか、それとも患者さんの目を見て言葉を交わす時間に充てるか──選ぶのは私たち一人ひとりです。どうか患者さんに優しく語りかけてください。画面の向こうにあるのは単なるデータではなく、かけがえのない一人の人間であることを私たちは常に胸に刻んでおく必要があります。デジタルとアナログの調和を目指し、医療を単なる「作業」ではなく「奏でる行為」として続けることこそが、使命であると感じています。正しいと思うことは言うべきですが、言い方・言う時・言う相手を考えるべきです。悪いことを言う場合には良いことも言うべきです。物事は何事も他の何かと「比較」することで成り立っています。

原点の救急から進化し先進医療　さらに健康寿命の増進まで追求

徳田虎雄・名誉理事長は「病院は地域の生活と文化の中心でなければならない」と言っておられました。当院が先頭を切った未病改善のための医療のあり方や、外国ではよく知られた音楽療法も、神奈川県からのご指導・ご支援により進めています。SDGs(持続可能な開発目標)を進める日本政府も、本気になって健康年齢の増進に力を入れ始めました。救急は医療の原点です。そこから進化し先進医療、さらに健康寿命の増進まで、果てしなく歩み続ける徳洲会は85病院となりました。

一人でも多くの患者さんから「この病院に入院できて良かった」と言われるように、救急患者さんには確信がもてるまで入院精査をしてください。外来では採血採尿だけではなく、生理・画像検査を含めた検査が重要です。当院は鎌倉市長も言われるように鎌倉市民病院です。まもなくBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)の臨床応用が始まります。いまだに減価償却2億5,000万円を抱える当院の職員は汗を流して頑張っています。診療報酬では十分に評価されない人道的支援や、がん診療連携拠点病院としての活動も積極的に行っています。先日、徳之島徳洲会病院の新築竣工式に出席し、島の人たちの思いを肌で感じました。応援ではなく、私たち皆で協働し、ここまでやれるという診療をつくりましょう。当院が徳洲会の旗艦病院というなら、率先垂範して皆で頑張りましょう。