徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

岸和田徳洲会病院(大阪府) 院長
畔栁 智司(くろやなぎさとし)

直言 生命 いのち だけは平等だ~

畔栁 智司(くろやなぎさとし)

岸和田徳洲会病院(大阪府) 院長

2025年(令和7年)07月07日 月曜日 徳洲新聞 NO.1499

年齢も経験も価値観も異なる多様な個性
その差異は組織の「強さ」そのものの証
全員が同じでなくても同じ方向に歩んでいく

岸和田徳洲会病院の院長を拝命してから、1年と3カ月が過ぎました。このわずかな期間にも、世界は、かつてないスピードで変化し続けています。物価高騰が日常生活を直撃し、エネルギー、食料、人件費のすべてが上昇するなかで、社会全体が静かに、しかし確実に不安定さを増しています。これまで通用していた常識や仕組みは、もはや保障されるものではなく、変化に適応できない組織や個人は取り残される――そんな現実が、今まさに目の前に迫っています。

“人は力”──この言葉に尽きる すべての職種が等しく欠かせず

私たちの病院は、「人」の力で動いています。どれほど高度な設備やシステムが整っていても、医療は人が支えるものです。一人ひとりが自らの役割を果たし、互いに連携し、支え合ってこそ、病院という組織は前へ進んでいけます。

“人は力”――この言葉に尽きます。

医師、看護師や薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、リハビリテーションセラピスト、栄養士などコメディカル、事務職員など、すべての職種が等しく不可欠な存在です。

病院は多職種・多機能の集合体です。立場や経験が違えば、見えている景色も異なります。だからこそ、私たちが常に意識すべきは「共通の目的と価値観」です。患者さんにとって、地域にとって、私たちは、どんな病院でありたいのか――その問いに立ち返り、日々の行動へとつなげていくことが、真のチーム医療につながります。そして、その先にこそ「誇れる職場」があると、私は確信しています。

「誇れる職場」とは、単に給与や待遇が良いだけの場所ではありません。自分の仕事が誰かの役に立っていると実感できる。未来に希望をもてる。そのような環境が、結果として「人が辞めない職場」を生み出し、定着した人材が育ち、新たな力を受け継いでいくことができる――そんな風土が、強い組織を育てていくのだと思います。

とはいえ、それだけでは医療の持続可能性は保てません。診療報酬など制度の改定、物価や人件費の上昇、医療資源の不足といった厳しい経営環境のなかで、私たち自身も進化が求められています。良質な医療を継続し、職員を守り、未来につなぐためには、利益の確保が重要です。正当に労働を評価し、安全な環境を整え、設備や教育へ再投資する――そのための利益です。

これからの医療現場をより良くしていくために、私たちは「効率の良い働き方とは何か」を、あらためて考えなければなりません。限られた時間と人材で、質の高い医療を提供し続けるには、無駄を減らし、本当に大切なことに集中できる体制づくりが不可欠です。効率を高めることは、現場の負担を軽減し、より良い医療環境を築くための基盤でもあります。

離職率の低下もまた、極めて重要な意味をもちます。一人ひとりが職場に定着し、成長していくことで、現場の安定性は増し、教育コストも削減できます。職員の笑顔が増えれば、患者さんの安心感にもつながり、病院全体の信頼と価値も高まるはずです。

私たちの職場には、年齢も経験も価値観も異なる多様な個性が集まっています。その違いは、組織の「強さ」そのものです。誰もが自分の強みを生かし、互いを尊重し合うことで、困難な状況にも柔軟に対応できるチームが生まれます。全員が同じである必要はありません。同じ方向を向いて歩めば、すべての人が完全に満足することは難しくても、それぞれの立場にとって、納得できる着地点を見出せるはずです。

緊急手術に対応できない施設も そこにチャンスを見出し存在感

そして最後に、心臓血管外科を取り巻く環境について触れておきたいと思います。各種カテーテル治療や薬剤の進歩により、全国的に症例数が減少していると聞きます。さらに、「働き方改革」の影響で、緊急手術に対応できない施設も増えています。ここにこそ、私たちのチャンスがあると感じます。

この厳しい時期を乗り越え、生き残った先には、新しい形の心臓血管外科の可能性が、きっと広がっていると信じています。リクルート活動にも力を入れ、何としても、この分野での存在感を保ち続けていくつもりです。変化のなかにも希望を見出しながら、一歩ずつ、着実に前に進んでいきたい。力を合わせて、未来を切り拓いていけるよう、皆で頑張りましょう。

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