直言
Chokugen
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直言 ~
福田 貢(ふくだこう)
医療法人徳洲会 副理事長 八尾徳洲会総合病院(大阪府) 総長
2025年(令和7年)04月28日 月曜日 徳洲新聞 NO.1489
新たに仲間になっていただいた医科・歯科の研修医師の皆さん、徳洲会へようこそ。東上震一理事長はじめ職員一同、ご入職を心より歓迎いたします。コロナ禍での学生生活を経て現在に至るまで、皆さんは膨大な学習と実習の過程で、多くの努力と忍耐を重ねてこられたことでしょう。その成果が今、徳洲会という新たなステージで開花しようとしています。徳洲会を初期研修の場として選ばれた決意と情熱に、深く敬意を表します。
私たちの仕事は、四季の変化と同様に推移していく人間の命と、その生活の質、最終的には避けて通れない死の過程をみていくことです。個々の季節で、それぞれの命の勢いは異なるとはいえ、何れの季節にあっても一生懸命生きようとする人間の姿を目の当たりにされることでしょう。どうぞ患者さんを励まし、勇気付けてください。「福祉の原点は医療にあり、医療の原点は急病救急医療にある」とは、徳洲会創始者である徳田虎雄先生の言葉です。この言葉が意味するところは“医療の使命は救命と機能救済にあり、救命後の慢性病の治療や予防は二義的課題である”とも理解されます。同時に研修医として習得すべき知識・医療技術などの優先順位を示す言葉とも受け取れます。
致死的疾患の除外を含むER(救急外来)での診断学、気管内挿管などの心肺蘇生術、心血管作動薬など臨床薬理への理解、人工呼吸器をはじめとするME機器の扱い、画像読影上の注意点の理解……など、皆さんが2年間で習得しなければならないことは多岐にわたります。どうか先行する課題の多さにひるまないでください。時間を惜しんで可能な限り多くの症例を経験し、上級医の指導やチーム内での議論を通じ、自身の経験を整理し記述する作業の反復が大切です。近い将来、自分でも驚くほど救急医療の勘所がつかめるようになり、その技量が伸びていくことに気付くはずです。どうぞ一生懸命に研修にあたってください。「真剣に臨めば知恵が出る、中途半端だと愚痴が出る、いい加減だと言い訳ばかり」。この言葉を心に留め置いてください。
救急現場での多職種連携の重要性について述べます。現場では看護師や救急救命士、臨床工学技士、診療放射線技師、薬剤師、そして時には消防隊員や警察官といった異なる専門性をもつメンバーと協力し、患者さんを適正な診断と最善の治療へ導くことが課題です。ここではチームワークを重視しながら、自分の役割を的確に果たす能力が不可欠です。近い将来、チームリーダーの役割を期待される皆さんですが、現場では個々の考え方や価値観の相違を調整しようなどとは考えないでください。自分の仕事の結果を最大限に利用し、自身の利益を保持する実利的な人間もいれば、自身の利害には無頓着ながら、チームリーダーとして卓越した能力を発揮する夢想家のような人間もまた共存しています。全ての仲間を大切に、そしてチームの力を最大限に引き出してください。
次に、すでにご存知の日本の医療を取り巻く現状、とりわけ、離島・へき地での医療提供の課題について触れます。これらの地域では医師不足の解消が継続的な課題であり、とくに救急医療では都市部と同等の水準を保つことが困難になりがちです。創設から50年を経たこの組織も同様の課題を引きずっています。専門スタッフが不足している中で、患者さんに適切な医療を提供することは容易ではありません。当グループでは北海道の日高、東北北陸で新庄・庄内余目・山北、離島では屋久島・笠利・名瀬・瀬戸内・喜界・徳之島・与論・沖永良部・石垣・宮古のそれぞれの徳洲会グループ病院で、多くの仲間たちが救命救急を含む地域医療と介護を支え続けています。
皆さんには離島・へき地で奮闘する私たちの仲間と出会っていただき、それを契機に地域医療に目を向け、離島・へき地での医療に積極的に関わる姿勢をもっていただくことを願っています。研修医として迎えるこれからの日々は、挑戦に満ちた時間となることでしょう。時に壁にぶつかり凹んでも、自身の成長を信じ、不断の努力を続けてください。そして救急医療を含めた日本全体の医療を支える存在として、共に未来を築くべく、皆で頑張りましょう。