直言
Chokugen
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直言 ~
東上 震一(ひがしうえしんいち)
医療法人徳洲会 理事長 一般社団法人徳洲会 理事長
2025年(令和7年)02月03日 月曜日 徳洲新聞 NO.1477
2025年が始まりました。タイトルで表明しているように、次年度こそ全スタッフの能力を最大限に引き出し、事業計画を達成したいと考えています。1~2月は計画を作成する時期ですが、今までの事業計画は、ともすれば本部から押し付けられた数値目標(ノルマ)として受け取られていたと思います。本来の意味に立ち返って “自らが目指す病院”になるため、積み上げていくべき必要な数値としての計画をお願いします。
ノルマという古い表現を使いましたが、この言葉自体は戦後の忌むべき暗い記憶、旧ソ連によるシベリア抑留の生還者から広まり、人口に膾炙したものです。私の潜在意識に、受ける側として、本部による高圧的な事業計画というイメージが未だ残っているのでしょうか。とにかく、今回は各病院の三役、幹部スタッフを中心に、現実を見据え、かつ自らが行う努力のプラス面に着目し、計画を練ってください。
医療界は大きく変化しています。コロナ禍後、多くの病院で経営状態が悪くなり、特に中小規模病院では存続困難な病院が増えていると言われています。コロナ補助金がバブルのように病院運営の現実を一時的に覆い隠していただけで、補助金がなくなった今、その厳しさが顕在化しているとも言えます。徳洲会グループもコロナ以前の19年度と比較し、業績は落ち込み、未だ回復しきれていないのが現状です。
この状況を乗り越えるため、自分たちが持つ医療資源を、許可病床という医療を提供する権利を、まず患者さんのために使い切る取り組みを進めています。具体的には全病院での入院患者数>1万8,000人、救急入院率60%(超規模病院で50%)。これら数値は、日報で確認できるリアルタイムの目標です。スタッフが日々、この値を確認して、グループがいち早くコロナ以前の運営状況に回復し、それを超えるようになれば、財政基盤の強化に直結すると考えます。
徳洲会に持ち込まれるM&A案件は、確実に増えています。M&Aの基本的な考え方は、同じ医療圏にある徳洲会病院に資するものであれば、積極的に取り組むというものです。かつて徳田虎雄・名誉理事長が徳洲会を拡大させる強い意志で、遮二無二に病院づくりに取り組んだグループ勃興期の苦闘が、今の徳洲会を形づくっています。私たちも次の半世紀に向け、グループ運営をさらにギアアップさせる必要があります。それぞれの病院運営を少しでも向上させる地道な努力が、グループの基盤を強化する唯一の手段だと確信しています。厳しい医療状況も私たちの努力次第で追い風に変えることができるのです。今をグループ成熟に向かう第2の勃興期にしたいと考えます。
私が理事長就任後の2年6カ月の間に、札幌外科記念病院、貝塚記念病院、阪南中央病院、厚生会第一病院、さいたま記念病院、老健かわぐちナーシングホームが新たに仲間に加わりました。今年度末までには札幌真駒内病院、野田総合病院(千葉県)、大崎病院 東京ハートセンター、東京蒲田病院が加わる予定です。順調に推移すれば、4月から徳洲会グループは83病院でスタートします。
徳洲会が行うM&Aは、強いものが弱いものを飲み込む資本主義的経済活動とは全く異なるものです。常に医療の受け手(患者)の利益を最善化することが、徳洲会の基本的な考え方です。徳洲会の運動で一人でも多くの人を幸せにすることが、創設以来一貫した私たちの医療に対する向き合い方です。
徳洲会の立ち位置は、医療を提供する側の論理(サプライヤーロジック)よりも、生まれながらにして患者側(カスタマードリブン)にあり、同時に働く側にあるのです。共に働く仲間(スタッフ)を幸せにすること、待遇を改善し、やりがいのある医療現場をつくっていくことも、徳洲会に課せられた責務であると考えます。人のためになって生きることの意義を問い、徳洲会の理念に共感できる仲間を増やすことが、M&Aの目的です。
P.F.ドラッカーは、その著書で言います。「知識労働者の生産性向上を成し得たものが明日を支配する」。徳洲会全スタッフが力を合わせ、今ある運営上の困難を克服し、明日を支配するものになりたい。皆で頑張りましょう。