直言
Chokugen
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直言 ~
福田 貢(ふくだこう)
医療法人徳洲会 副理事長 八尾徳洲会総合病院(大阪府) 総長
2024年(令和6年)08月26日 月曜日 徳洲新聞 NO.1455
8月12日、今年もJAL123便の墜落事故で亡くなられた犠牲者への追悼行事が行われました。4人の生存者のうちの1人が同郷であり、毎年この報道記事が目にとまります。痛ましい事故でした。今年1月2日夜には、羽田空港で日航機と海上保安庁の小型機の衝突炎上事故がありました。海保機は石川県能登地方で発生した地震の支援活動として、食料や水を運搬する予定であったといいます。重要な任務の途中で命を絶たれた5人の職員や、ご遺族の無念は察して余りあるものがあります。一方で日航機の乗客と搭乗員には、10人程のけが人が出たものの、死亡者はなかったと報じられました。これは当事者が過去に経験した悲惨な事故の教訓を生かし、自らの手で長年にわたり永続的かつ優先的に安全文化を築き上げたことで、現場職員の冷静かつ果断な誘導行動による成果につながったと、高く評価されました。
昨年1月末、神戸徳洲会病院では心筋梗塞死亡症例があり、不適切なカテーテル治療による死亡事故の可能性があると、一部職員より病院幹部へ指摘がありました。続く2月には肺炎で入院中の高齢女性が、右浅大腿動脈近位の急性閉塞により、下肢切迫壊疽の状態となりました。虚血肢救済の目的でカテーテル治療が行われ、下肢動脈血流は再開しましたが、翌朝には閉塞。再度、再疎通が試みられましたが、同側深大腿動脈分枝の穿孔があり、出血性ショック状態となりました。このため相当量の輸血が行われましたが、多臓器不全が続発し、結果として女性は亡くなられました。この2事例について、複数の関係者は病院幹部に医療事故調査委員会の開催を提案しましたが、開かれませんでした。
本部の医療安全・質管理部は2例の死亡事例の経過報告を受け、院内事故調査委員会を開くべきとの意見を病院幹部に伝えましたが、事は動かず。本部介入を6月初めに実施し、事故調査委員会の開催を7月中旬の予定としました。これに先んじて、同院ではカテーテル治療に関連し、死亡が多発しているとの報道がありました。報道は内部告発文の内容に基づき、すべてが事実との前提で記述されたようです。その後の行政の立ち入り調査の結果、医療行為関連死亡の疑いがあれば、速やかに院内事故調査委員会を開催することを趣旨とする行政指導を受けました。上記2事例の拡大事故調査委員会は8月末より2回にわたり開催されました。
これとほぼ同時期の9月中旬にはコロナ肺炎で入院中の高齢男性が、高浸透圧高血糖症候群にともなう代謝性脳症により、亡くなられました。10月には慢性閉塞性肺疾患の男性が病棟内で喀血を生じ、気管支鏡検査実施後の翌日に亡くなられました。この2例についても、新たに事故調査委員会を開くべきとの意見が現場ではありましたが、委員会はまたも開催されませんでした。11月初めの保健所立ち入り調査時に、新たな2例についての事故調査委員会が実施されていないと、再度の指摘を受けました。初回の保健所の指導内容が、事実上無視された事態でした。以後、本部職員が現場に常駐し、実態調査と事後処理を開始しました。ガバナンス(統治)、安全管理意識、全職員への情報伝達の欠如が主要な問題点として列挙されました。
同院は外来、入院患者数ともに激減しました。地域での信頼を失った結果です。この流れを修正する機会は、どこにあったのでしょうか。言うまでもなく事故調査委員会を速やかに開いていれば、この事態は回避できたのかもしれません。しかし、そうできなかったのはなぜか。再発防止には、過去からの学びを応用する手法が最善です。これにより、私たちは事故に対する強い当事者意識と責任感を抱きながら、組織で学ぶことができます。この学びの目標は医療者として人の生命を救い、支え、強化することです。
一方で、深く感情に入り込む調査や学習は、個人や組織にとって容易でも快適でもありません。それを承知のうえで、失敗から学んだ教訓を組織の根幹に組み込み、他に負けない徳洲会の強い安全文化を構築することが必要です。同院は尾野亘院長の指揮下、新たな歩みを始めました。光明が射すことを祈ります。
皆で頑張りましょう。