直言
Chokugen
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直言 ~
立石 晋(たていしもゆる)
共愛会病院(北海道) 院長
2024年(令和6年)08月12日 月曜日 徳洲新聞 NO.1453
国内最大の民間医療グループ、徳洲会グループの創設者で名誉理事長である徳田虎雄先生が7月10日、逝去されました。私は訃報を聞いた瞬間、大変驚きました。徳田先生は2001年の共愛会病院立ち上げの時期に、3回ほど函館に来られ、8時会、朝礼に出席され、独特な圧をもった風貌で、今後の医療はどうあるべきか、共愛会病院はどう地域に根差していくべきかなど、熱くお話しされたことを今も鮮明に覚えています。私が徳田先生と直接、言葉を交わしたのは、その時の3回程度です。徳田先生から話しかけられても、その迫力に押されて会話にはならず、何を聞かれても、ただ「ハイ、ハイ、ハイ」と返事をしたことが思い出されます。徳洲会立ち上げの草創期から、寝食を共にされてきた先輩方の喪失感は、いかばかりでしょうか。ここに謹んで、お悔みを申し上げます(合掌)。
徳田先生は徳洲会を創設した時から、“生命だけは平等だ”の理念を掲げ、「いつでも、どこでも、誰でもが最善の医療を受けられる社会」の実現を成し遂げようと、同じ志をもつ仲間たちを集め、患者さんのために誠心誠意、努力されてきたことと思います。最高顧問で学校法人徳洲会理事長である福島安義先生からは、当時、勤務していた虎の門病院に、仕事で忙しいさなか、徳田先生が何度も訪ねてきて、「徳洲会で一緒にやろう」と誘われたことや、医師会との激烈なやり取りなど、お話を聞かせていただいたことがあります。そうやって、一人ひとり仲間を集め、逆境に立ち向かい、徳洲会は大きくなったのだと思います。
当院も多分に洩れず、医師不足は深刻で、私も院長として、この逆境を乗り越えるべく、志を同じくする仲間を1人でも2人でも集められるよう、奮闘しているところです。
しかし、内科医師3人の退職に加えて、常勤医師の高齢化による活力低下問題も顕著になってきています。徳洲会の根幹の一つである救急医療を維持するため、人材紹介会社なども利用し、医師の確保、常勤医師の若返りを目指していますが、紹介される医師たちからは「週4日の勤務、当直・呼び出し不可、専門分野以外の診療不可」など条件を突き付けられ、面接・勧誘をすれども、なかなか入職までには至らないというのが現状です。医師や看護師を目指した者が、決して同じ志をもっている訳もなく、職員の確保には、いつも四苦八苦しています。
そうしたなか、「医師の働き方改革」が始まりました。函館市医師会の二次輪番制度の一翼を担っている当院ですが、救急指定日を担当することが医師不足のため困難な状況に直面してしまいました。そんな時、副理事長の福田貢先生に現状を相談させていただき、すぐに関西・関東ブロックの徳洲会病院から医師を派遣していただきました。
また、北海道ブロックからも、常務理事で札幌東徳洲会病院総長の太田智之先生の計らいにより、医師を派遣していただき、二次輪番制度に穴を開けることなく、何とか維持・運営ができるようになりました。このことは当院救急科だけの問題ではなく、道南函館地域の救急医療体制を維持するうえでも、大変ありがたいことでした。福田先生に医師不足を相談した時から医師派遣までのスムースな動きは、徳洲会職員が同じ志をもっているからこそ、できたことと思います。この場を借りて医師を派遣していただいた各病院の皆さんに感謝を申し上げます。
徳田先生が徳洲会に遺されたものとは、医療・介護・福祉施設といったものではなく“生命だけは平等だ”の理念と、それを成し遂げようとする同じ志をもった仲間たちなのだと、思いを馳せています。困難に見舞われることは、辛いことではありますが、志をもって逆境に立ち向かうことは、決して辛いことだけではありません。医療者という職を選んだ矜持をもって、この逆境を乗り越えることにより、得られるものもあると、徳田先生の訃報に接し、あらためて徳洲会の理念を噛み締めています。
今後も当院は患者さんを断ることなく、地域に根差し、地域から必要とされる病院になるため、“生命だけは平等だ”の徳洲会の理念の下、志を一つにし、邁進してまいります。
皆で頑張りましょう。