徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

医療法人徳洲会 副理事長
八尾徳洲会総合病院(大阪府) 総長
福田 貢(ふくだこう)

直言 生命 いのち だけは平等だ~

福田 貢(ふくだこう)

医療法人徳洲会 副理事長 八尾徳洲会総合病院(大阪府) 総長

2024年(令和6年)04月30日 火曜日 徳洲新聞 NO.1438

患者さんと共に闘い心情に思い寄せる
優れた医療者に成長していくこと願う
人として生きていくうえでの勘どころ大切に

新たに仲間になっていただいた医科・歯科の研修医師の皆さん、徳洲会へようこそ。東上震一理事長はじめ職員一同、当法人への入職を心より歓迎します。皆さんの多くが、6年間の学生生活の大半をコロナ禍で過ごされたことと思います。マスク着用、黙食、不要な会話・移動の自粛を要請された臨床実習など、日常には多くの困難があったものと察します。その困難を乗り越え、徳洲会に入職いただき、お礼と祝意を申し上げます。

死亡の確認を依頼された後に 息吹返した研修医時代の教訓

さて、皆さんは十二支の成り立ち(説)をご存じでしょうか。たとえば6月は開花(巳)、9月は落葉(申)といった具合に、各月に表意文字が与えられています。植物の生命の盛衰を示したものですが、人間の生命もまた同様の盛衰を繰り返します。私たちの仕事は、四季の変化と同様に推移する人間の命とその生活の質、最終的に避けて通れない死の過程をみていくことです。それぞれの季節にあっては人の命の勢いが異なり、その時々に生きがいや失意、希望、絶望、落胆、安堵、悲哀が付いて回ります。皆さんは医療の現場で、人間が自身の命を背負いながら生きていく姿を目の当たりにされることでしょう。どうぞ患者さんを励まし、勇気づけてください。

これから多くの症例を経験していく過程で、皆さんは独自の教訓を積み重ねることでしょう。私も研修医時代に自験例から貴重な教訓を得ました。

冷たい雨が降る当直の深夜、路上で倒れていた70代と思しき女性の救急搬送依頼がありました。「心肺停止状態であり、死亡確認をお願いします」とのことで、救急外来到着時には事前の連絡どおり呼吸は静止、心音と頸動脈拍動は消失、皮膚は粗造でメラニン様の色素沈着が観られました。直腸温は30度に満たず、検死を依頼すべく警察に連絡を入れる直前のことでした。

現場を共にした看護師の「先生、この人、息をしたみたいだよ」との一言で、この患者さんの運命は変わりました。結論に至る詳細は省きますが、粘液水腫性昏睡にともなう低体温症と診断し、呼吸管理を中心に対症療法を開始しました。検死依頼で救急外来に搬入されたこの女性は、その後の4カ月を経て独歩退院となりました。病歴は長く、13年前にうつ病と診断され、その頃より皮膚は粗造化し、感情の抑揚と四肢筋力が失われ、次第に廃人のようになっていったと言います。「病脳期間が長い症例の治療は決して急いではならない」と、当時の岸和田徳洲会病院院長の山本智英先生によるご指導でした。この助言は臨床を継続するうえで重要な教訓として残り、内科医を続けていくための道標になりました。

絶えることのない努力を それが結実すること希求

皆さんも、そう遠くない将来に、自身の存在が他者の助けになること、技術を磨いて難しく入り組んだ問題を解決できるようになることを実感し、自身の成長に気付く時が来るに違いありません。一方で、不快や不可解なことにも日々遭遇します。診断が確定できないこと、治療の選択肢がないこと、予後不良と思われる独居高齢者を前に「残された時間は、さほどない」と伝えなければならないこと、通院中の仲睦まじい夫婦が同時期に認知症を発症する現場、四肢を抑制されたままに他界する人がいる現実、些細な諍いに心折れ、仲間が自分を見失うこと……など。その時々の課題、問題意識から逃げる訳にもいきません。

皆さんには、優れた医療者に成長されることを願うと同時に、同じ時代を生きる患者さんと共に傷病と闘いながら、その心情にも思いを寄せる人間になっていただきたいと思います。どの職業にあっても充実の時もあれば、奈落の底にいて先が見えない時もあります。いずれの時にも、“他者を思いやる気持ちが大事。私利私欲に走らず自分のやるべきことは責任をもってやり遂げよう。感謝の気持ちや礼儀を忘れないように。勉強を怠らず知識を蓄えよう。友人や家族、仕事仲間を大切にして誠実に生きよう”――いわゆる儒教の五常、「仁・義・礼・智・信」として語られる“人として生きていくうえで忘れてはならない勘どころ”を忠実に押さえながら、臨床研修に臨んでいただきたいと思います。絶えることのない努力を、そして、それが結実することを願います。

皆で頑張りましょう。

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