直言
Chokugen
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直言 ~
遠藤 清(えんどうきよし)
生駒市立病院(奈良県) 院長
2024年(令和6年)01月15日 月曜日 徳洲新聞 NO.1423
人からの感謝を実感する仕事に就きたい。そんな生意気な高校2年生が目指したのが医師でした。そもそも医師に対するイメージがあったわけではありません。医学部2回生の時、一冊の本と出会いました。ある日のこと突然、先輩から「遠藤、これ読んでみ」と手渡されたのが『城砦』でした。スコットランドの小説家A.J.クローニンの1919年の作品です。医師である作家の体験小説的なもので、一人の青年医師の人生を描いています。その中の一節に、面接官の「どのような医師を目指すのか」との問いに、「私は、自分の診断をまず疑うことができる医師になりたい」と答えているシーンがあります。この言葉は、読んだ当時も、ある衝撃をもって記憶に刻まれましたが、医師として多様な経験をしてきた今では、その言葉のもつ重さ・深さが、30年余経つ私の医師人生の基盤となっていると思います。
私は以前から手術記録に図を多く入れるようにしています。これは医師人生を始めた滋賀医科大学外科医局の影響です。先輩医師たちが描く手術図が素晴らしく、研修医は皆、手術図を描いていました。言葉だけで表すより、図にすることで、より詳細に手術の内容を伝えられるだけではなく、図を描く時、細かな部分がぼやけていた場合、解剖書を見ることによって、手術をより理解する修練になっていました。この習慣は以前より頻度が減っていますが、今でも続けています。
図と言えば、最近は外来での病状説明にも手書きの図を使用しています。甲状腺・乳腺・腹部エコーなどは、以前は「大丈夫」とか「肝臓に腫瘍がある」など口頭で説明していましたが、ある日、これはどのくらい伝わっているのだろうと思い、図を描くようになりました。検査で見えた全体像を描いて、個々の臓器の評価を書き込む形で「肝嚢胞はここに」、「右腎臓、OK」などといった具合です。そうやって説明した時、相手の反応で、とてもうれしい言葉があります。「よくわかりました」です。先日、中学3年生の外来患者さんの腹部エコーを肝臓や腎臓、大腸の絵を描いて説明した時、その子が親に向かい「よくわかった」と言ってくれた時は、とてもうれしくなりました。現代の医療は相手に多くの情報を提示し、医療者側と患者側が一緒に答えを出す時代になっています。経験から、または知識格差により、医療者側だけで治療方針を決定するのは正しくありません。もし知識格差があるとしたら、それは医療者側の努力不足と言えます。医療者と患者さんが対等に意見を出し、実践していく医療を目指していきたいと思います。
私の生まれた1960年代は出生数160万~180万人でしたが、2019年の統計では約87万人と半減し、40年には約74万人になると試算されています。これは日本全体の統計ですが、当院のある生駒市も同様の問題を抱えています。人口減少が避けられない地域を守っていくため、市長、議会をはじめとした行政は、さまざまな施策を出し現社会の存続、より良い社会を目指し努力を続けています。その一つに「安心して子育てできる社会」があります。当院は地域行政の医療部門を担当する者として、一般病院としての医療だけではなく、行政の施策実現に向け産婦人科、小児科を充実させ、子どもを安全に産み、育てていく社会を目指しています。また、超高齢社会に対応し、今まで以上に高齢者医療にかかわる必要があると考え、介護施設や在宅の方々に対する医療を積極的に行っています。また、このように地域共生を目指す医療組織としてだけではなく、先進的な医療のダヴィンチ手術や、がんなどの手術・化学療法、循環器科や整形外科をはじめとした一般診療を行い、さらに救急医療は365日24時間、断らない体制を展開しています。
将来、生駒市の病院同士が密に連携し、生駒市民を診療所と病院群で一緒に治療していくような地域医療を実現したいと考え、一般病院が扱いにくい分野などは、より当院が担当することを構想しています。全国に74病院を展開する徳洲会グループは日本の未来を支える医療グループです。徳田虎雄・名誉理事長は「世界の厚生省になる」とも言われています。日本の未来を創生するため、皆で頑張りましょう。