直言
Chokugen
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直言 ~
高橋 俊樹(たかはしとしき)
吹田徳洲会病院(大阪府) 院長
2023年(令和5年)09月04日 月曜日 徳洲新聞 NO.1405
2021年1月に当院に入職し、今年4月1日に東上震一理事長から院長を拝命しました。
徳洲会との出会いは学生時代に遡ります。当初、内科系臨床医を考えていた私は、1981年に長崎で行われた徳洲会グループの入職説明会に参加しました。膝を突き合わせ、エネルギッシュに徳洲会の理念と臨床現場の魅力を語られる徳田虎雄理事長(現・名誉理事長)の雄姿は、今でも鮮明に覚えています。その頃、トールワルド著、『外科の夜明け』という本にも出合いました。痛くて感染必発の悲惨な黎明期の手術治療を、近代外科学に発展させた麻酔法や防腐法(消毒法)に関する物語を記した感動的な本でした。医師国家試験の準備を進めていくなかで次第に外科、なかでも心臓血管外科に魅せられ、大阪大学第一外科への入局を決めました。その頃に徳田先生から下宿にお電話をいただき、正直にその旨をお話ししたところ「阪大一外はしんどいけど、すごく鍛えてくれる。一生懸命に勉強し、将来、徳洲会においで」とのお言葉をいただきました。説明会で入職に脈のありそうな学生に電話されただけだと思いますが、この時の徳田先生のお言葉にも背中を押され、外科医師の道を歩むことになりました。
阪大病院の研修では心臓血管外科、呼吸器外科、一般消化器外科、小児外科の4領域の患者さんを同時に受け持ち、各々の術前術後検討会、手術と術後管理、回診、さらに緊急手術症例が回ってきて、盆暮れのない月月火水木金金の一年でした。研修医仲間は重症や緊急手術症例の受け持ちも喜んで受け入れる猛者ばかり。経験手術件数が増えるうえに学会発表につながる可能性が高いからです。一方で、ある指導医からは「患者さんは親と思って接すること」、「外科医は臓器を直接見ながら治療できるのだから、内科医より深く勉強できるし、しなければならない」と、ことあるごとに諭されました。徳洲会の理念にも通じる訓示でした。
関連病院での研修終了後は阪大一外心研の心カテグループに入り、虚血性心疾患外科治療に関する臨床研究で医学博士を取得、留学したCleveland Clinicでは年間4,000例の開心術に圧倒されながら、当時、導入されて間もない低侵襲弁膜症手術や心拍動下冠動脈バイパス術も学びました。帰国後、阪大病院や山形大学病院で後天性心疾患や大動脈外科を中心に手術・臨床研究を重ね、阪大一外医局長として、松田暉教授の下で組織運営のノウハウも学びました。その後、心臓血管外科部長・集中治療室部長として10年間勤務した国立大阪医療センターでは大動脈瘤ステントグラフト内挿術を、2014年から副院長・救急手術部門長として勤めた大阪警察病院では新たにハイブリッド手術室を増設し、経カテーテル大動脈弁置換術を導入しました。外科医師になって、つねに心がけてきたことは外科治療の低侵襲化とチーム医療の充実です。とくに冠動脈疾患や大動脈弁狭窄症の治療ではハートチームとして診療に取り組み、2021年12月の日本冠疾患学会では外科系会長を務め、その集大成となりました。
当院は開院10年目に入りました。近くに阪大病院や国立循環器病研究センターをはじめ、高度医療や地域医療を担う公的病院がひしめき合っています。そのなかで当院の存在感を増すのは容易ではなく、前院長の金香充範総長や前事務部長の植嶋敏郎・事務局長らのご尽力は大変なことだったと思いますし、今もグループから様々な応援を受けながら日々奮闘しています。
医師確保の手段のひとつとして大学医局とのつながりが重要となりますが、近く取得予定の基幹型臨床研修病院の指定は当院の活性化に加え、大学医局へのアピールにもなります。また、グループ病院の充実した専攻医プログラムの存在は研修医募集で心強い味方です。一方で、診療の質向上・維持には感染対策、医療安全管理、診療情報管理などの横断的な運営が極めて重要で、その役割と体制をさらに強化する考えです。今後も全職員で力を合わせ、診療所医師との連携をより強固にし、救急医療や、がんの集学的治療、高度医療を含む一般診療の発展、健診センターの国際化の回復、離島医療への応援拡大を目指してまいります。
皆で頑張りましょう。