直言
Chokugen
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直言 ~
東上 震一(ひがしうえしんいち)
医療法人徳洲会 理事長 一般社団法人徳洲会 理事長
2023年(令和5年)07月31日 月曜日 徳洲新聞 NO.1400
今年度最初の四半期が過ぎました。徳洲会グループの運営状況は非常に厳しいものです。医業収益の伸びを超える人件費の増加が経営を悪化させる一因として取り上げられています。正確には人件費比率上昇です。一人でも多くの患者さんを幸せにすると同時に、共に苦労する仲間を幸せにすることが徳洲会の究極の存在目的ですから、4万人に達した職員数の多さは、むしろ歓迎すべきグループの成長として理解し、経営悪化の主因として捉えるべきではないと感じています。繰り返しますが、人件費増は正確には人件費比率増なのです。グループ全体で望まれる医業収益の伸び(事業計画で掲げた数値目標)を達成すれば、その数字だけが独り歩きすることはありません。
許可病床を使い切る努力、病院を預かった院長は職員を励まし、入院患者数を確保することが当然の責務だと考えています。離島・へき地を含め全国に展開する徳洲会グループですから、少ない医局員数で苦労する中小規模病院の厳しい現実も十分理解しています。しかし、事業計画に足らない、あと20人の入院患者さんをどの先生にお願いするか困ったら、全て院長が引き受けるという覚悟が必要です。決してオーバーワークを強いるのではなく、役割にともなう責任行動だと考えます。
都市部であれ離島・へき地であれ、医療者の前にはいつも患者さんがいます。その患者さんを満足させ幸せにすることに場所の違いはないはずです。私は和歌山県の南紀地方、人口6,000人に満たない漁村の町立病院(90床)に外科医師として勤務した経験があります。内科の院長、副院長の私、外科の3年次の後期研修医1人、非常勤で麻酔も担当する内科医師1人。私が徳洲会に招請される頃には、病棟がいつも満床だったことを覚えています。
この町立病院で20年以上、手術が行われなかった倉庫扱いの手術場を清掃し、モニター類は業者からお借りして手術を始めました。専門分野の腹部大動脈瘤手術、下肢末梢動脈手術に加え急性腹症の開腹手術、ひいては骨折手術(人工骨頭置換術)まで、5カ月弱で70数例の手術を行いました。35歳の私には大学人事への不満よりも、私を歓迎し大事にしてくれるこの村(場所)での業務に満足し、充足を感じました。大学からの期限を切らない派遣でしたが、見えない将来に思い悩むより、目の前の私を信頼してくれる患者さんに応えるため全力投球の毎日でした。結果として、この日々は約半年後の予期せぬ徳洲会からの誘いによって終わりを迎えました。「夢、希望、ロマン」。その時の私には知る由もありませんでしたが、後になって徳洲会のこの言葉を知り、未来を明るく捉え努力することの大切さを痛感しました。
徳洲会は決して巧妙な経営手法によって成長したわけではありません。いつの時も誰かの闇雲な努力、常識を超えた頑張りによって幾多の苦難を乗り越えてきたのです。今期の事業計画は2019年度に準じ策定したもので、いたずらな成長目標を課すものではありません。額に汗する以上に入ってきた補助金がもたらした“心のコロナ禍”を一刻も早く克服し、つねに空腹で満たされることのない野生の心を持った本来の徳洲会に立ち返るべきです。日本一の巨大民間医療集団という形容は、徳洲会を牽引する私を含めたリーダーの皆さんに心地良く響きます。しかし、その囁きは結果として心の緩みを生み、大甘の人員管理につながったのです。自戒を込めて創業者の言葉を噛み締めたいと思います。
「人にカマをかけられ、あるときは踊らされて、血のションベンをたらしながら死に物狂いで突っ走ってきた。日本の医療を変え、世界の医療を変えて、真の医療を実践するために、命を懸けてきた。命を懸けるとは、繊細な神経で細心の注意を払いながら、私心をまったく捨てきって、積極的に、力の限り根かぎり、徹底して、一つのことに突進するということである」(『生命だけは平等だ』改訂普及版より)。
徳田虎雄・名誉理事長の熱いメッセージは、書き写しているだけで、心に迫るものがあり、翻って自身の至らなさに胸が痛みます。事業計画の達成に各施設を預かる院長、施設長は全力を注いでください。
皆で頑張りましょう。