直言
Chokugen
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直言 ~
植嶋 敏郎(うえしまとしお)
一般社団法人徳洲会 事務局長
2023年(令和5年)02月20日 月曜日 徳洲新聞 NO.1377
1995年11月1日、東京本部(当時は山王グランドビル)会議室で、徳田虎雄理事長(現・名誉理事長)の訓示を聞いていました。机の上に足を上げ、穴が空いた靴底を見せ、ガムテープで持ち手を補強したカバンを持ち、鋭い眼光と、気迫溢れる言葉で「全国に病院をつくりまくるんや!」と言い放つのを耳にした瞬間、「よし、この人に付いて行こう」と決心しました。翌年末、関西でクリニック開設のご縁をいただき、中古ビル物件売買契約(所有者都合の現金取引)に臨むため、大阪本部でカバンに詰めた現金の重さに大きな責任を実感しました。無事に契約が終わり、物件の鍵を受け取り現場の扉を開けた瞬間、将来への希望と、一方では途方もない重圧を感じたことを思い出します。開院まで3カ月は必要だと思いましたが、徳田理事長から1カ月後に開院するよう指示を受け、どのようにすればできるのかを考え、工務店に施工を依頼し期日に合わせるため、突貫工事が始まりました。職員募集、行政への諸届、物品調達、地域対策など時間との闘いのなかで、クリニックづくりの大変さを思い知らされました。開院後は、誰よりも早く出勤し最後は施錠して帰宅する日々が続きましたが、得ることが多く、寝食を忘れ夢中で取り組み続けました。
2012年8月18日、徳田理事長がALS(筋萎縮性側索硬化症)の進行以来、9年ぶりに来阪され、吹田徳洲会病院の地鎮祭に出席、また関西・大阪ブロックの徳洲会病院を視察されました。岸和田徳洲会病院で私(当時は事務部長)はお迎えしたのですが、徳田理事長から「吹田徳洲会病院の事務部長を頼みます」と言われ、その言葉の重さに堪えきれず涙が溢れ出し、同時に意気に感じたのを強く覚えています。その後、同院開院直前に徳田理事長から「焦らず、じっくり良い先生を集めて良い病院にしてください」といただいた言葉が、開院後のさまざまな苦しみから私を救ってくれました。
「事務方の職務に資格はない」。病院は多くの国家資格者が集まっていますが、事務職には国家資格はありません。事務職にとくに求められるのは、組織運営上での対応能力、コミュニケーション力や調整力、人間力などです。私は異業種から飛び込んだので、医療・介護現場の運営知識と経験を積むため日本医療機能評価機構、国際標準化機構のISO9001、外国人患者受入れ医療機関認証制度などの第三者評価調査員として、多くの医療・介護施設の運営を学び、ベストプラクティスを理解し、自院への貢献を考えてきました。
事務部門は病院組織のなかで各部署の潤滑剤的な役割を発揮し、病院運営を円滑に進めることが求められます。事務(部)長は事務部門のトップとして“率先垂範”、身の丈以上に汗をかき、病院三役のなかでは参謀(自立性・客観性をもち、現場主義を実践し脇役に徹する)を務め、院長、看護部長と共にアンストラクチャー下(形が崩れ整っていない混迷した状況)に置かれた時、臨機応変な対応で活路を見出すことが大切です。
「深謀遠慮」(深く考えを巡らせ、遠い先のことまで想定し計画を立てる『過秦論』)を意識し、つねに組織運営上の問題が発生した場合に備え、代案を準備しておくべきだと考えます。現在、我が国は高齢化問題に直面し、地域包括ケアシステムの構築が提唱されていますが、各病院でどのような戦略を考えるのか、参謀として院長、看護部長に提言できているでしょうか。
病院経営は利益追求ではなく、地域貢献であり、患者さんに対する奉仕と言われています。それを実践するには資金が必要であり、民間医療機関は自立して資金を準備しなければなりません。利益追求に走るのではなく、人的資源の育成・活用、支出の削減に努めることで経営は成り立つという徳田理事長の「第1に“生命だけは平等だ”の理念で患者中心の医療を目指し、第2に医療技術と接遇教育でモラルを高め、第3は数字合わせ。金利を下げイニシャルコスト、ランニングコストを抑え、医療技術の向上で経営はうまくいきます」との言葉が明快な答えです。
「先義後利(患者中心の医療を一生懸命やれば、利益は後から付いてくる)」。患者さんも地域も職員も幸せになるために、皆で頑張りましょう。