直言
Chokugen
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直言 ~
馬場 淳臣(ばばあつおみ)
横浜日野病院 院長
2023年(令和5年)02月13日 月曜日 徳洲新聞 NO.1376
2月1日、当院は新築オープンしました。私が院長として赴任後20年と半年、やっと迎えた晴れの日です。難しい立地や環境での建築を見事に成し遂げた設計の現代建築研究所様と施工の松井建設様、工事による不便をご寛恕賜りました近隣の皆様、さまざまなサポートをいただいた一般社団法人徳洲会担当の方々、本当にありがとうございました。1月21日には東上震一理事長をはじめ多くの方々にお出でいただき、神事と竣工記念式典を行いました。午後は内覧会でしたが、新型コロナ第8波がピークアウトしていない状況に鑑み、関係者の方々のみで、こじんまり行いました。お客様から「きれいな病院だ」、「ホテルのようだ」とお褒めいただくのを夢心地で聞いていました。他のことはともかく、病棟の見た目を褒められたことは、この20年余り一度もなかったのですから。
当院は「自分が入院したくなる病院」を目指します。これは私が徳田虎雄理事長(現・名誉理事長)から、病院をお預かりしたその日から今日まで、一貫して申し上げてきたことです。とは言うものの、病院なんて一生縁がないほうがいいに決まっています。ましてや精神科なんて。しかし全く身体の病気にならずに一生を終えるのが困難なのと同様、一生、精神的な不調に陥らず過ごすのは、とても難しいことです。身体の病気と違って、精神の不調は自分や身内が直面するまで想像しにくいようです。だから私が徳洲会の会合などで「ぜひ、いつかうちの病院に入院してください」と申し上げると、笑いが起きます。「自分が精神科に入院するはずがない」と思っているからです。でも本当にそうなんでしょうか。
日本では1年間に約2,600人が交通事故で亡くなります(2022年)。大けがをされた方はもっとたくさんいるでしょう。一方、自ら命を絶ってしまう方は、一時より減りましたが、1年で約2万人います。理由はさまざまでしょうが、そのほとんどが精神的に苦しんでいたと考えられます。人生には時に耐え難い苦しみの嵐が吹き荒れる時があります。私にもそんな時が来るかもしれません。その時、当院は荒れ狂う嵐をやり過ごす穏やかな港でありたい――私はそう願っています。
さて、新病院にはいくつかの特徴ある病棟を設けました。そのひとつが認知症治療病棟です。認知症は物忘れや日常動作の困難だけでなく、時に抑うつや混乱、情緒不安定、興奮、幻覚妄想など、さまざまな精神症状をともなうことがあります。そのため、ご本人や介護する方が苦しみ、疲弊することが少なくありません。場合によっては入院し、適切な精神科的働きかけを行うことが必要となります。しかし旧病院は狭く段差が多く、ご高齢の方をお預かりするには難点の多い構造でした。そこで新病院では安心して過ごしていただけるよう、バリアフリーに徹し、空間を広々と取りました。認知症治療病棟には生活機能回復訓練のための専門のスペースがあり、日常生活動作能力の維持・向上を図れるようにしました。これまで十分にお応えできなかったニーズについて、ご期待に添えるよう頑張るつもりです。
最後に昔話をひとつ。院長として赴任したばかりの頃、当直をしていた私に、深夜外泊中の患者様のご家族から電話が入りました。「急にお腹を痛がって苦しんでいるけれど、どうしよう」と。病院に帰って来られても、これといった検査もできません。救急で設備が整った病院にかかるのが一番いいのですが、果たして診てくれるところがあるだろうか。精神科に入院している方をこんな深夜に。私が以前住んでいた県では、当時は精神科の病気があるというだけで救急を断られることが普通でした。救急どころか腎臓透析も断られ、片道2時間以上かけて県の端から端まで通っている方もおられました。
恐る恐る湘南鎌倉総合病院(神奈川県)に電話し事情を話すと、何のためらいもなく「じゃあ、これからいらしてください」と。どれだけ頼もしく嬉しかったことか。
“生命だけは平等だ”
精神科医療は時に誤解され偏見をもたれ、差別を受ける患者様もおられます。だからこそ、徳洲会が精神科医療を担うことの意味は計り知れません。
皆で頑張りましょう。