徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

医療法人徳洲会 副理事長
八尾徳洲会総合病院(大阪府) 総長
福田 貢(ふくだこう)

直言 生命 いのち だけは平等だ~

福田 貢(ふくだこう)

医療法人徳洲会 副理事長 八尾徳洲会総合病院(大阪府) 総長

2022年(令和4年)12月26日 月曜日 徳洲新聞 NO.1370

失敗に対しオープンで正直な文化こそ大切
医療事故などの報告事象をデータベース化
これを活用できるシステムを構築し改善へ

B─17は第二次大戦中に米国で生産された戦略爆撃機です。子どもの頃から同機が好きで、これまでに模型30機以上を仕上げました。実機は全長22.80m、全幅31.64m、離陸重量30.7tで、4基のターボエンジンを積んでいました。この機は初飛行からしばらく後、連続で着陸失敗の事故を起こしました。コックピットには同じ形をしたふたつのレバーが並び、ひとつは主翼フラップ操作用、もうひとつはランディング・ギア操作用でした。事故調査チームは当初、パイロットの操縦ミスを想定しましたが、最終報告では、それら2つのレバーが似た形状で並列に置かれていることが操縦ミスを誘発したと結論、以後、レバーの形状と位置を変更しました。変更後、同種の事故はなくなり、パイロットの操縦ミスは問われませんでした。

また、この機には別のエピソードがあります。大戦当時、パイロットの生還率は50%弱で、軍司令部は機を強化する装甲が急務と考えました。ただし、装甲を増やすと機動性が害されます。このため装甲が必要な部位の優先順位決定のための調査を行いました。分析では損傷に明確なパターンが見られ、帰還機の多くは翼も胴体も蜂の巣のように穴が開いていた一方、コックピットと尾翼には砲撃を受けた形跡がありませんでした。そこで司令部がとった判断は「たくさん穴が開いていた機体部分に装甲を施せばいい。砲撃を受けた箇所こそ強化すべきだ」と。

しかし、これに反対する若年将校がいました。著名な数学者でもあった彼は「軍司令部の解析は帰還した機のデータだけであり、撃墜された機体のそれは入っていない。帰還した機のコックピットと尾翼には穴跡がなく、そこを撃たれなかった事実は、そこを撃たれると帰還不能になることを意味する。コックピットと尾翼を撃たれなければ、パイロットは生還できる」。以後、コックピット近傍と胴体最後尾に新たに銃座を増設、装甲の追加は行いませんでした。

注意深く考え真実を見抜く まずチームワークの醸成を

事故や有害事象から学ぶのは容易ではないことが窺い知れます。このケースの教訓は、注意深く考える力と物事の奥底にある真実を見抜こうとする意志が不可欠であり、これは航空機の問題だけでなく、医療現場にも通じます。

医療現場での事故対応はどうでしょう。2020年、日本医療安全調査機構は不整脈治療目的で実施されたカテーテルアブレーション実施症例中の死亡事例の解析結果を詳述しています。対象18症例中、カテーテルアブレーション治療中に心嚢液の漸増、血圧低下を認めた7例のうち6例で操作を続行していたことを問題として指摘。調査終了後、再発防止策として治療開始前のブリーフィングにより、治療方針を明確にする、術者以外のチームメンバーが操作の中断に関する声がけをする、術者がチームメンバーの意見を聴く――重要性に言及しています。それ以前の『WHO 安全な手術のためのガイドライン2009』では「チームワークの如何が職場環境、職員の士気、患者安全とアウトカムに大きく影響する。また職種や職位に関係なく、懸念事項や思ったことを気兼ねなく発言できる雰囲気をチームで共有できる体制を構築、それによる迅速な対応につなげることが重要。すなわち心理的安全性が高いチームこそが良好な結果を生み出し、医療事故のリスクを低減する」といったことを述べています。チームワークは自然に養われるものではないが故に、目指すは、まずそこ。

命を守るための情報共有 日常的なデータ収集が要

おそらく世界中どこの医療機関にも非難と上下関係の文化、職種間ギャップ、個々のコミュニケーションギャップがあり、“失敗の共有”は航空業界のようにスマートにはいきません。一方で、私たちには医療事故の報告義務が課せられています。目的は言うまでもなく命を守るための情報共有です。死亡事例の場合には経過、身体の経時的状態評価、関連医療行為の妥当性の詳細かつ正確な記述が必須です。あわせて事故のレベルの軽重によらず、日常的なデータ収集とその共有が欠かせません。失敗に対してオープンで正直な文化があれば、組織全体が失敗から学べます。組織内で報告事象のデータベース化と、それを活用可能なシステムを構築しましょう。そこから改善が進むのです。皆で頑張りましょう。

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