
直言
Chokugen

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直言 ~
寺田 康(てらだやすし)
医療法人徳洲会 専務理事 庄内余目病院(山形県) 院長
2022年(令和4年)10月24日 月曜日 徳洲新聞 NO.1361
当院に僻地研修に来たある研修医の治療は完璧でした。繰り返す誤嚥性肺炎で入院した80代後半の高齢の患者さんは、胸部レントゲン所見も採血結果も改善しました。嚥下内視鏡の結果、誤嚥の原因は偽性球麻痺タイプの嚥下障害で、食事摂取時の姿勢対応として前傾座位、頸部前屈で、水分にとろみ2倍を付け、誤嚥防止対策を立てました。
「食べることが父の唯一の楽しみで、まだ食べられて良かった」と娘さんは大いに喜び、患者さんは地域の高齢者施設に退院しました。
それから4日後の朝、内科の病棟回診で、その患者さんが入院していることがわかりました。診断は誤嚥性肺炎の再燃でした。
聞いた範囲から察するに、高齢者施設では、個々の患者さんに合わせた特殊な食事摂取時の姿勢対応を取る介護職員の人的余裕がなかったようです。
ご多分に漏れず、ここ山形県庄内地方は人口が減少し、高齢化が進んでいます。高齢者の療養環境は、建物などの箱物より、人的資源に大きな影響を受けます。この地域でも、高齢者を介護する人材が不足しているのです。研修医に尋ねました。「誤嚥性肺炎という病気は治せても、庄内では、この誤嚥性肺炎の患者さんは治せないね。どうやったら、この患者さんは退院できるだろうか?」。その回答はまだ出ていません。
東北の僻地では、医療弱者は移動手段を持たない高齢者です。国は高齢者の運転免許の自主返納を推進しています。しかし、ここ庄内では社会基盤をなす公共交通機関が衰退しています。
定期バス路線はなくなり、余目―新庄間43㎞を最上川に沿って走る風光明媚なJR陸羽西線は、並走する国道のトンネル関連工事のため、今年5月から2年間の予定で全線休線、バスに代替え輸送となりました。休線になった2カ月後、国主導の存廃協議の対象路線に指定され、廃線の危機にあります。町内の民間タクシー会社も深夜の営業を取り止めました。
独居の高齢者だけでなく、若い世代と同居していても日中、独居の高齢者はたくさんいます。
そうした方々は医療を選択する余地はなく、地域で受けられる医療に最善を求めています。
厳冬の昼、居間にいて自分で暖房を入れられず、低体温で動けなくなったところを発見され、救急搬送された日中独居の老人、深夜に勤めから帰宅した家人が、介護する寝たきりの母親の枕元に置いてある食パンと牛乳が減っていないことに気付き、救急搬送される老婆など、これが僻地の救急医療の現実の一端です。
そうした方々に提供する最善の医療とは保温であり、また食事箋を出し、温かい病院食を提供することなのです。
この現実は僻地の医療を経験しなければ、わかりません。
そして我々徳洲会の使命は、僻地で提供する最善の医療が、より最新の医療でもあることを目指すことです。
東北ブロックには5つの徳洲会病院があります。今、健診などで見つかる虚血性心疾患の疑いは、3D―CTや冠動脈造影検査で、実際に心筋を養う冠動脈を画像でみることが必要です。聴診器では診断できません。
残念ながら、これらの検査は5つの病院すべてでできる訳ではありません。また、冠動脈に病変があった時、治療ができる医師は、東北ブロックの2施設に計3人しかいません。しかも、そのうち1人は高齢者? です。
今、徳洲会がなすべきことは超規模、大規模病院に集約された医療技術や蓄積された医療経験を僻地・離島に展開することです。僻地・離島には医療を選択できない医療弱者の高齢者が大勢います。こうした方々が求める、地域で受けられる最善の医療が、実は最新の医療でもあるような社会をつくることが我々の使命だと確信しています。
そして、もうひとつ大切なのは皆で大きな夢を見ることです。
現実は厳しい。思い通りにはいかないこともあるでしょう。下を向いていると暗くなります。
でも、いつ、何時でも皆、空を見上げることはできます。
古い話ですみませんが、坂本九の『上を向いて歩こう』、橋幸夫と吉永小百合の『いつでも夢を』は名曲だと思います。
皆でこの歌を歌いながら、「いつでも、どこでも、誰でもが最善の医療を受けられる社会を目指して」皆で頑張りましょう。