直言
Chokugen
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直言 ~
高杉 香志也(たかすぎかしや)
与論徳洲会病院(鹿児島県) 院長
2022年(令和4年)08月22日 月曜日 徳洲新聞 NO.1352
“生命だけは平等だ” の理念の下、「与論島で最良の医療を安心して受けてもらえる病院づくり」を目指し、2020年4月に院長として赴任しました。島唯一の病院として医療を安定して継続、さらには向上させ、病院スタッフを守り、理念を実践する――これが、いかに難しいか日々痛感しています。
赴任1年目のことです。当院検査部は2.5人体制でしたが、業務は多岐にわたり、隔日ないしは連日となるオンコールをほぼ2人で行うという激務。人員枠の増員申請、募集を行いましたが、すぐには人が集まらず、手をこまねいているうちに、新型コロナ禍が到来、さらなる負担増となりました。過労によるスタッフの病欠と、定年が重なり、ついには常勤ゼロに陥りました。検査停止は、島民の命にかかわります。
この危機に沖永良部徳洲会病院(鹿児島県)、沖縄ブロック、全国の検査部の方々が応援に来島、働きやすいシステムづくりや業務改革にも取り組んでいただき、与論の医療危機を助けてもらいました。徳洲会検査部会に深く感謝するとともに、理念実現のために取り組む徳洲会グループの力強さが骨身にしみました。島の医療の継続性のためには、人員を確保しやすい都市部の病院で、各職種の確保・育成を行い、離島やへき地を応援できる、ゆとりをもったシステムづくりが望まれると考えます。
医療の質の担保には、島外加療がやむを得ないことがあります。しかし、それは患者さんだけでなく、ご家族も移動、滞在することがあり、経済的負担は相当なものです。「先祖からの田畑を売らなければ……」との声も聞かれ、「健康と生活を守る」難しさを痛感することが少なくありません。
当院での全身麻酔による手術は、19年度は1件でしたが、20年度28件、21年度33件と増加。これは、出雲徳洲会病院(島根県)の田原英樹院長が当院外科チームを再編して手術を再開し、宇和島徳洲会病院(愛媛県)の保坂征司院長が、さらに症例を重ねチームを育てられているからです。麻酔の問題が大きく立ちはだかりましたが、中部徳洲会病院(沖縄県)の服部政治・疼痛治療科統括部長が率いる同科の先生方が来島、予定手術のみならず緊急手術までも対応いただいています。また、これまでは、ヘリ搬送せざるを得なかった総胆管結石、胆道感染の患者さんを中部徳洲会病院の仲間直崇・消化器内科部長が、尿管結石、尿管閉塞、敗血症の患者さんを南部徳洲会病院(沖縄県)の島袋浩勝・泌尿器科部長が来島、処置いただいています。多くの先生、スタッフの方々の日々の尽力に心から感謝します。
がんの手術を安全に行うのはハードルが高いと思っていましたが、今回、「ホンダジェット」の試験運用で宇和島病院から執刀医である保坂院長をはじめとするチームの応援が実現。通常では乗り継ぎを含め移動に半日〜1日がかりとなるところが、片道わずか3時間です。現在まで2回、ホンダジェットによるチーム応援で、胃がん、大腸がんの手術を行っていただきました。いずれも島外加療を受けることができなかった患者さんです。経過は良好で、患者さん・ご家族からも深い感謝の言葉をいただきました。理念の実現にはまだ遠いものの、確実に前に進んでいると実感しました。
その一方で、整形外科領域の問題が残っています。緊急ではないためドクターヘリでの搬送適応とならず、旅客機に乗れない患者さんは4時間半かけフェリーで移動、台風などが重なると、2週間経っても移動できないことがあります。年間20人以上が、手術のため船で沖縄に移動していますが、なかにはご家族が付き添えないため、手術を断念し、車いす生活から寝たきりになってしまう方もおられます。離島やへき地応援を行う整形チーム、ホンダジェットでの移動・機材搬送、離島側の手術室や電子カルテの連携などがあれば、離島やへき地での整形手術も実現するのではないかと夢見ています。
困った時に仲間と情報を共有し、相談して行動することで前に進むのが徳洲会だと思っています。患者さんと仲間の思いを胸に刻み、医療技術と診療態度の向上に絶えず努めることで、理念実現に近づくはずです。
皆で頑張りましょう。