徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

徳洲会感染管理部会 部会長
湘南鎌倉総合病院(神奈川県)感染対策室 部長
佐藤 守彦(さとうもりひこ)

直言 生命 いのち だけは平等だ~

佐藤 守彦(さとうもりひこ)

徳洲会感染管理部会 部会長 湘南鎌倉総合病院(神奈川県)感染対策室 部長

2022年(令和4年)07月25日 月曜日 徳洲新聞 NO.1348

急峻な立ち上がりの新型コロナ第7波
新たなオミクロン株亜種「BA.5」が台頭
困難な状況に怯まず一致団結して立ち向かおう!

国内では1月から2月にかけて、オミクロン株による第6波を経験しましたが、それ以降は比較的落ち着いた状態が続いていました。しかし、7月に入ってから新規陽性者数が増加に転じ、22日には日本全国の新規陽性者数が19万人を超えました。非常に急峻な立ち上がりで、感染性の強さが実感されます。

従来のオミクロン株と比べ 感染性は約1.4倍と強い

今回の第7波の主力になっていると考えられるのは、オミクロン株の新たな亜種「BA.5」です。これは2月に南アフリカ共和国で発見され、同国では4月から5月にかけて、従来のオミクロン株から急速に置き換わっていきました。ポルトガルでも5月に「BA.5」への置き換わりが急速に進みました。その後、英国や米国をはじめ世界各国で同様の現象が見られました。日本では4月下旬に成田空港の検疫で最初に発見され、その後、水面下で市中感染として徐々に増殖し全国に拡散、第7波に至ったものと推定されます。

新型コロナウイルスはニドウイルス目コロナウイルス科に属するプラス極性の一本鎖RNA非分節ウイルスです。もともとRNAウイルスは突然変異による塩基置換が起こりやすく、遺伝子情報はつねに変化します。しかし、分節型のRNAウイルスであるインフルエンザウイルスよりは変異が少なく、加えてRNAポリメラーゼ(RNA合成酵素)に複製ミスを修復する機構をもっており、本来、変異のスピードは比較的緩徐のはずです。それにもかかわらず変異株が出現するのは、免疫不全者の体内で長期間生存して変異が蓄積した可能性が考えられます。

第7波の主力と見られる新たな亜種「BA.5」には、ウイルス表面のスパイクタンパク質を構成するアミノ酸の69/70欠失、L452R変異、F486V変異などがあります。これらにより感染性が高まり、従来の免疫システムから回避しやすい、といった性質を獲得しているようです。従来株と比較し感染性は約1・4倍強いとの報告もあり、従来株から急速に置き換わって急峻な立ち上がりを示しているのも納得できます。

またスパイクタンパク質が変異を来すことで、従来のオミクロン株に対する中和抗体の結合性が減弱していると推定されます。すなわち従来株に罹患していても中和抗体が機能せず、再感染を起こす可能性があると考えられますので、従来株の罹患歴があったとしても油断しないことが大切です。現行ワクチンの接種により、重症化率や死亡化率は下がりますが、将来的には流行株に合わせたワクチン設計や、変異に左右されない粘膜ワクチンの開発が求められます。

「BA.5」は従来株よりも下気道で増殖しやすいとの報告もありますが、これは下気道に多く発現するTMPRSS2という膜貫通型セリンプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)に結合しやすいことが原因と思われます。

海外で報告された「BA.5」の臨床症状は、全身倦怠感、咳嗽、発熱、頭痛、鼻汁、筋肉痛、咽頭痛などですが、下気道症状が増えている(肺炎などで重症化しやすい)可能性もあり、国内での症例解析が待たれます。

治療についてはスパイクタンパク質の変異により、中和抗体が結合しにくくなっており、中和抗体療法は優先順位が下がります。抗ウイルス薬(モルヌピラビルやニルマトレルビル・リトナビル)はウイルス遺伝子の増幅を抑える仕組みをもち、変異株にも有効と考えられます。国産の抗ウイルス薬も厚生労働省に緊急承認を申請していましたが、継続審議となり、発売までにもう少し時間がかかりそうです。重症の場合はサイトカインストーム(免疫暴走)を抑制するためにステロイドが依然として有効となります。患者さんの病態に合わせた治療薬の選択が必要です。

基本的な感染対策を 順守することが第一

ここ1~2週間で職員の陽性者も急激に増えてきました。職員ご自身が感染しないように基本的な感染対策を順守することが第一です。ソーシャルディスタンスを取る、しっかりと換気を行う、会食時はマスク会食を行う、病院の中ではマスクやゴーグルをしっかり装着する、必要な場面でしっかり手洗いを行う、休憩室や食堂では黙食を行う――。当たり前のことをしっかり行えば、患者さんの安心、安全、幸福につながります。変異株に負けない強い気持ちをもって、皆で頑張りましょう。

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