直言
Chokugen
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直言 ~
尾﨑 勝彦(おざきかつひこ)
徳洲会インフォメーションシステム(TIS、大阪府) 社長
2021年(令和3年)4月5日 月曜日 徳洲新聞 NO.1281
1980年4月、八尾徳洲会総合病院入職を皮切りに、徳洲会グループ在職41年が経ちました。同院の薬剤師として薬品管理システムの開発を手がけたのをきっかけにIT(情報技術)分野にかかわるようになりました。データを音楽カセットテープに保存していた時代です。その後、野崎徳洲会病院時代にハードディスクを購入し、手計算だった給与計算を電子化しました。ネットワーク化も企業間データ交換手段の日本標準だった全銀オンライン手順を活用し、徳洲会本部への日報報告をファクシミリからデータ送信に変更しました。しかし、時の流れは早く、ロードエラーを起こさないストレージ(記憶装置)、データ転送エラーを起こさない通信手順を渇望するようになりました。
私が小学生の頃、電話は有線が当たり前で無線通話は漫画『鉄腕アトム』で知り、「どこからでも電話ができたら」と夢見ていました。ダイヤル式の電話を知らない新入職の皆さんは電話といえばスマホでしょうが、未来にどのような夢を描きRealize(実現化)していくのでしょうか。
ゲーム『ポケモン GO』に見られるAR(拡張現実)は現実の風景にバーチャルな情報を重ねて表示します。VR(仮想現実)と融合したMR(複合現実)は大きなサングラスのような形をしたHoloLens(ホロレンズ)などのデバイスを用いることで、治療・手術支援、リハビリテーション、遠隔医療、教育などに活用でき、当社でもまずは患者さんの案内などに応用できないか検討しています。
コロナ禍で出張が減り交通費は減少しましたが、通信費は増加しています。社会構造が変化したのです。これを〝変革〟と捉え発展させるか、一時的な現象と見るかで、コロナ後の成長が左右されると考えます。
現在、湘南鎌倉総合病院と与論徳洲会病院との間など、さまざまなところで、グループ閉域ネットワークを利用した医療のリモート支援が行われていますが、法的な規制などにより、いまだ運用が追い付いていません。在宅のリモート診療も普及には程遠い状況です。しかし、AI(人工知能)問診などで病気の予測が可能となり、自身の医療情報を一元管理できるPHR、スマートウォッチといったバイタルデバイスなどに加えて電子処方箋の環境が整えば、リモート診療が円滑に行えるようになり、対面診療とリモートによるオンライン診療を組み合わせたハイブリッド診療が、今後の診療モデルになるかもしれません。
Digital Transformation(デジタル トランスフォーメーション)(DX)とは、簡単に言えばITを駆使しイノベーション(革新)を起こすことですが、ITのインフラ整備だけではDXは実現しません。それぞれの職種、部門、部署で、人がイノベーションを起こすことが欠かせません。そのためには人材をきちんと支援する体制を敷き、とくに「コミュニケーション環境」を整えることが必要不可欠です。当社では今期中にグループ内コミュニケーションチャットツールをリリースする予定です。
また徳洲会グループは1300万人もの患者データを徳洲会メディカルデータベース(TMD)として蓄積。これを活用し当社は湘南藤沢徳洲会病院の亀井徹正(てつまさ)総長らとともに、ML(機械学習)によるコロナ感染の重症化予測モデルを開発中です。
TMDはリアルワールドデータ(匿名化した患者単位のデータ)としてメディアにも紹介されており、筑波大学の岩上(いわがみ)将夫助教らは急性腎障害(AKI)の発症季節変動をテーマにTMDを用いた研究を行い、国際学会で発表されました。製薬会社やアカデミア(学界)などでも利活用が始まっています。さらに心臓外科、内視鏡、透析などの領域でTMDを用い詳細なデータベースの構築もスタートしており、TMDが医療の発展にますます寄与すると考えています。今期中には内視鏡、CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像診断)のAI読影による臨床評価も始まる予定です。
TMDにより今後、さまざまな疾患の予測モデルを開発することも可能になります。過去に徳洲会グループが救急医療のイノベーターであったように、当社は既成概念を打破しRealizeに邁進(まいしん)し、医療DXを徳洲会グループから巻き起こします。今はまだ夢の途中ですが、限界の半歩先にRealizeがあることを信じて、皆で頑張りましょう。