直言
Chokugen
Chokugen
直言 ~
安富祖 久明(あふそひさあき)
一般社団法人徳洲会 理事長
2021年(令和3年)3月29日 月曜日 徳洲新聞 NO.1280
東日本大震災から10年が経ちました。巨大津波と原発事故という未曽有の複合災害による死者、行方不明者は2万2000人を超え、全国で今なお4万1000人以上が避難生活を余儀なくされています。多くの尊い命が失われたことに、謹んで哀悼の意を捧げるとともに、被災された方々、避難生活を送られている方々に対し、心からお見舞い申し上げます。10年という歳月は復興に短く、いまだその途上にあることを私たちは認識し、決して忘れてはいけません。
1995年の阪神・淡路大震災の発災時、徳洲会グループの医師や看護師など職員がボランティアとして緊急救援活動を展開したのを契機に、TMAT(徳洲会医療救援隊)の前身が発足。以降、新潟県中越沖地震、東日本大震災、西日本豪雨災害、インドネシアのスマトラ沖地震、ハイチ大地震、ネパール大地震など国内外で医療支援活動を行ってきました。「いつでも、どこでも、誰にでも最善の医療を提供したい」、「被災し傷ついた人や病気で苦しむ人を助けたい」という徳洲会の理念と〝医の心〟が、全国から被災地に集結した仲間たちの軌を一にします。
TMATは「そこにある危機」に対し、いち早く反応して先遣隊を派遣、現地で情報収集を行い問題点やニーズを把握し、他の支援団体などと連携しながら活動内容を組み立てます。こうした活動で培った経験が新型コロナウイルス感染症対応にも生かされています。各地で発生したグループ施設のクラスター(感染者集団)情報は、すぐに各ブロックの感染管理部会メンバーと一般社団法人徳洲会(社徳)に情報共有され、最善の対応策を取ることが可能になっています。これら組織は経験を重ねるたびに知識・技術を磨き、現場のスタッフと協力しながら感染を最小限に抑え込み、早期終息につなげています。
新型コロナの感染拡大から1年が経過し、世界の感染者数は1億2000万人超、死者数は274万人超、日本でも46万人超が感染し8000人を超える尊い命が失われました。
徳洲会グループでは現場と社徳などが力を合わせ、地域の中核病院、医師会、行政と緊密に連携しコロナ対策を実施、全国のコロナ患者さんの3~4%の入院を受け入れてきました。感染への恐怖や不安と闘いながら、矜持(きょうじ)をもって対応した職員の皆さんに心より敬意を表します。
一方、感染への不安から心ない言葉や誹謗中傷を受け、心が折れたこともあったと一部の職員から聞いています。原発事故の放射性物質汚染地域の被災者の方々もまたそうであったように、見えざる敵は、そんな社会の不条理をあぶり出します。このような過ちを繰り返さないために、自身の言動に関し立ち止まって自問することが大切です。また、感染症に対する正しい情報を地域社会と共有することも欠かせません。感染が発生した場合、その事実や感染拡大防止策などを随時、公表し、人々の不安を和らげることも必要です。
これまで人類は自然災害や感染症などによって多くの苦難と試練を強いられてきました。一次的な被害のみならず、風評被害、経済的被害などから立ち直るには、長い時間を要します。人類はこうした艱難(かんなん)辛苦を幾度も乗り越えてきたことを歴史は語っています。
日本でもようやくワクチン接種が始まりました。効果や副反応、変異株への効力などに不安があるかもしれませんが、ワクチンをひとつの希望の光として、できる限り早く多くの人々が接種し、この難局が終息することを願っています。
4月に新入職員を迎えます。コロナ禍にあっても医療機関への入職を志した勇敢な仲間を、皆で温かく迎えましょう。そして新入職の皆さんに徳洲会の原点や理念を伝え、私たちの経験を承継し、早く一人前になるようサポートをお願いします。
第4波の足音も聞こえ、試練はまだ続くと思われますが、この1年余りの経験を生かして、必ず打ち勝たなくてはなりません。コロナは人と人との密を阻みましたが、人は人とつながることで、より大きな力を発揮し、成果を生み出します。
患者さんのため、地域住民の方々のために、最善を尽くすことが徳洲会の使命です。密を避けながら、しっかり連携し、皆で頑張りましょう。