直言
Chokugen
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直言 ~
松本 裕史(まつもとひろし)
羽生総合病院(埼玉県) 院長
2021年(令和3年)1月11日 月曜日 徳洲新聞 NO.1269
新型コロナウイルスの猛威が、とどまるところを知りません。当院は2020年4月から1病棟をコロナ専用病棟として患者さんを受け入れてきました。入院患者さんが無断離院をし、世間をお騒がせしたこともありました。埼玉県は全国と比較し医療資源に乏しく、県南部の医療は隣接する東京都に依存しています。
一方、コロナ患者さんは自治体ごとの対応となっていますので、患者数が増加すれば、ただちに医療崩壊の危機に陥ることは、以前ご紹介したとおりです。そのことは県の担当者の方々もよく理解されており、病床の確保目標を明確にして努力されていました。「患者発生数がフェイズ3となった時の1000床は何とか確保できたが、フェイズ4の必要病床1400床は、どうしても確保できる見込みが立たない」とのことで、早期から患者さんを受け入れていた当院に相談に来られました。
その時、神奈川県や千葉県で徳洲会グループ病院がコロナ専用プレハブ病棟を運営していることをお話ししたところ、興味を示され、方向性を見出されたようでした。「同じような受け入れができないか」と打診がありました。
「当院は潤沢に人材がいる病院ではないので、グループの支援がなければ、とても対応できません」とお答えしたところ、大野元裕(もとひろ)知事が自ら一般社団法人徳洲会に出向かれ、安富祖久明理事長に、できる限りの対応を要請されました。そこから話がスタートし、当院裏手の職員用駐車場のスペースに、テレビで報道されたとおり、発熱外来と80床分のプレハブ病棟を建設、21年1月1日から運営開始となりました。
20年12月現在、院内のコロナ患者さん専用病床は、ほぼ満床が続いており、病床の運用は綱渡りとなっています。最初に患者さんの受け入れを提案した時、大きな異論が出なかったのは、今まで私たちが徳洲会の理念に基づき「求められたら、どんな患者さんでも受け入れる」という思いを、職員全体が共有していたからだと思います。
人は危機的状況に陥った時に、本性を現します。私たちが掲げてきた思いは、本物であったと確認することができました。
世の中に必要とされる仕事はなくならない――自分たちの大事な人を守るための闘いであるということを、皆に理解していただいたことに心の底から感謝しました。最初の担当看護師は、ひとり暮らしの独身者を主体に編成、ご家族との同居者は寮で単身生活をしていただきました。疲労と慣れによるエラー発生のリスクを考慮し、1カ月単位でローテーションしています。エラーが発生すれば、院内感染が起こり、ご高齢の入院患者さんに犠牲者が出る可能性が高まります。幸いにも患者動線と職員動線をうまく切り分けた当院の構造と、感染予防に対する職員全員の日々の努力により、今までのところ院内感染を起こすことなく経過しています。
熟練した者たちだけが対応するほうが、リスクを低くすることができるのではないかという意見もあるとは思いますが、それでは長期戦は闘えません。ある特定の人たちだけに負担を強いる体制では、長続きしないのは明白です。ローテーションを実行してきたおかげで、看護職員の3分の2以上がかかわることになり、貴重な経験を積むことができました。また、ローテーションに際しては、各病棟の師長クラスも率先して最前線に出ていただきました。レッドゾーンに入る看護師だけでは環境整備面に手が回らないため、病室の清掃、患者さんや物品の搬送などに関して協力体制も構築しました。文字どおり、リスクを共有するワンチームとなった職員を誇りに思います。
新型コロナウイルス感染症との闘いは、いろいろなことを私たちに問いかけています。私たちは何のためにこの仕事をしているのか、何をしなければならないのか、何を求められているのか――。ただひとつ、わかったことは「現場の人間を絶対に消耗品にはしない。必ず守る!」というメッセージが共有され、信頼の絆で結ばれていることです。
闘いはまだまだ続きます。最後までワンチームで活動し、勝利の日を迎えることを確信して、日々を過ごしていきます。
皆で頑張りましょう。