直言
Chokugen
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直言 ~
間瀬 隆弘(ませたかひろ)
大垣徳洲会病院院長(岐阜県)
2020年(令和2年)6月15日 月曜日 徳洲新聞 NO.1240
当院のある大垣市を紹介させていただきます。岐阜県というと皆さんは何を思い浮かべられるでしょうか。高山(たかやま)の古い町並み、あるいは白川郷(しらかわごう)の合掌造りという方が多いのではと思います。山のなかの印象ですよね。
じつは大垣市は山のなかではなく、名古屋を中心とする濃尾(のうび)平野の北西にあり、飛び地の上石津(かみいしづ)地区を除くと、ほぼ全域が海抜3〜6mの平坦な低地です。そして木曽三川と言われる河川のうち、揖斐(いび)川と長良(ながら)川に隣接し、多くの河川が網目状に流れる水郷地帯であり、古くから「水の都(水都)」と呼ばれています。美味しい水のあるところには当然、酒蔵もあります。
夏の気温は最近では40度近くに達し、日本で最も蒸し暑い地域のひとつです。病棟から眺める滋賀県との境をなす伊吹山の景色は素晴らしいのですが、そのかわり冬には「伊吹おろし」と呼ばれる強烈な西風がダイレクトに当院に吹き当たります。
豪雪地帯である関ケ原も近いのですが、温暖化の影響か雪が積もるのは年間数日程度です。今年はまったく積もりませんでした。また大垣市は日本列島のほぼ中央にあるので、大垣駅から東京駅まで2時間10分、新大阪駅まで1時間20分、名古屋駅までは30分、中部国際空港まで1時間10分と主要都市圏へのアクセスが良好です。当院は駅から徒歩10分圏内ですので、徳洲会の病院のなかでは利便性の高い病院のひとつだと思われます。大垣市の人口は約16万人ですが、グローバルに展開している企業が多く経済界は活気があり、県庁所在地の岐阜市を凌駕(りょうが)しているような印象さえ受けます。
岐阜県の二次医療圏は5つの圏域に分かれています。江戸時代に岐阜県は飛騨国(ひだのく)にと美濃国(みののくに)に分かれていました。飛騨国が飛騨医療圏、美濃国が4つに分かれ岐阜・西濃(せいのう)・東濃(とうのう)・中濃(ちゅうのう)の各医療圏となっています。当院は西濃医療圏に属しています。
カンガルーマークのトラックを見かけられたことがあると思います。この西濃運輸という会社名は西濃つまり美濃地方の西部を意味しているのです。西濃圏域の人口は37・5万人(2017年時点)で、36年までに約19%減少すると見込まれていますが、人口10万人あたりの医師数(16年時点)は165・2人と全国平均の240・1人を大きく下回っており、すべての診療科で医師不足の地域です。
西濃圏域には、903床の大垣市民病院、315床の西美濃厚生病院(養老町)、283床の当院、281床の揖斐厚生病院(揖斐川町)、同じく281床の博愛会病院(垂井(たるい)町)などがあります。救急医療の大部分は当院と大垣市民病院が担っており、当院はこの圏域で欠かせない病院になってきました。
昨年11月に実施した防災訓練は地域住民だけではなく、行政や岐阜DMAT(厚生労働省が認めた災害派遣医療チーム)にも参加していただき、より実践的な訓練を行うことができました。地域からの期待が高まっている反面、問題点も明らかとなり、その整備が今後の課題です。
地域医療構想では、ふたつの厚生病院が合併し数年先に400床の新病院が当院から約8㎞北の大野町に建設されます。しかし、“生命だけは平等だ”という徳洲会グループの理念に基づき、患者さん中心のより良い医療を続けていけば大きな影響はないと考えています。
新型コロナウイルス感染症への対応では、皆さん大変なご苦労をされていることと思います。当院では、まず病院幹部を含めた対策会議を1日に3回行い(現在は週2回)、3月上旬から学生実習や通所リハビリテーションの中止、来院者の手指消毒・検温の実施、面会制限などの徹底化を行い、多くの患者さんから「安心して受診できる」との評価をいただきました。現時点では、圏域での話し合いで、当院では感染症患者さんの入院治療は行っておらず、後方支援として軽症者を受け入れるホテルへの職員派遣を担当しています。
並行して第2波に備え、ゾーニング(区域分け)を考えた安全に治療が行える病床を整備しました。まだ終息は見えていませんが、この対応で病院がひとつにまとまった印象があります。「In the middle of difficultylies opportunity(困難のなかにチャンスがある)」物理学者のアインシュタインの言葉です。
皆で頑張りましょう。