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直言

Chokugen

橋爪 慶人(はしづめけいと)(東大阪徳洲会病院院長)

直言 生命いのちだけは平等だ~

橋爪 慶人(はしづめけいと)

東大阪徳洲会病院院長

2018年(平成30年)12月17日 月曜日 徳洲新聞 NO.1164

難しい虐待の断定だが些細なあざも
見逃さず問題意識をもつことが大切
児童虐待介入援助チーム委員となり14年

事件としてメディアに取り上げられ、裁判に至った虐待事案を、私は2003年に3件立て続けに経験しました。その経験から大阪府より委嘱され、大阪府児童虐待等危機介入援助チーム委員となり14年が経ちました。

これまでも悲惨な虐待事件が起こるたびに、社会問題として取り上げられ、児童虐待防止法の改正など、児童虐待を取り巻く環境は、さまざまに変化してきました。しかし、ここ1、2年の変化は、これまでとは趣が大きく変わってきたように感じます。

03年、児童相談所(児相)の児童虐待相談対応件数は2万6569件でした。その後、毎年増加していき、19年には13万3778件(速報値)にまで増えています。

私は、ここ数年の増加は、いろいろな事件から子どもを守るため、警察から児相への通告が急増していることも大きな要因のひとつだと、今年4月の「直言」に書きました。これも事実ですが、それだけでなく幼稚園や保育所、学校など、子どもにかかわる機会の多い先生方からの通告も着実に増えてきています。先に記した私が感じている「これまでとは異なる大きな変化」の背景には、そのような状況があります。

04年の法改正で通告義務は「見た」から「疑った」に

04年、児童虐待防止法が改正され、通告義務の要件が、それまでの「虐待を見た」から「虐待を疑った」に変更されました。虐待が行われるのは、大半が家庭内であるため、この改正はしごく当然であると言えます。そして、その結果、法改正の目的に合致し、通告件数が伸びました。それはそれで良かったのですが、ここ数年、この「疑う」という意識が浸透し、あざなどの身体的変化を見つける周囲の目が格段に広がってきたため、虐待の可能性が低い案件も増しているように思われます。

私はこれまで多くの講演を行ってきましたが、そこでいつも質問することがあります。聴衆のなかのお父さんやお母さんに手を挙げてもらい、「これまで一度も自分の子どもをたたいたり、殴ったりしたことがないという人だけ手を下ろしてください」という問いかけです。

結果は、幼児以上の子をもつ親の大半が手を挙げたままになります。この「直言」を読まれている方も自分に問いかけてみてください。手を下ろせるでしょうか。そして手を下ろせなかった方は、すべて虐待をしているのでしょうか。

ひとつの行為を虐待と断定するのは非常に難しいことです。正直、「何をもって虐待として対応すべきか」との問いに対し、私は明確な答えをもち合わせていません。社会的に孤立し、経済面でも苦しく、子育てに慣れていない親にとって、そうした生活環境では躾(しつけ)という名の下の暴力が次第にエスカレートしていくことは想像に難くありません。そのような親に、困窮する親に、手を差し伸べ、援助を提供することにかかわり続ける必要があるのです。それができるのは、児相だけ。だからこそ、その児相が手を差し伸べられるように、虐待を疑われた親が児相に頼れる環境を、そして手を差し伸べるべき対象だという意識を、社会のなかで醸成していく必要があると感じています。

被虐待児は一見明るく元気な責任感ある子に見えることも

もっとひどい、犯罪的な虐待事案だけにかかわればいいと思われる方もいらっしゃるでしょう。でも、それは理想論でしかありません。アルコールや薬物、DV(家庭内暴力)など嗜癖(しへき)におぼれる人がいる家庭では、子どもも親が期待するとおりの「良い子」であり続けることで、生き残ろうとします。このような子どもは、感情や家庭内の問題を外に漏らさず、一見「明るく元気な責任感のある子」に見えることも少なくありません。

採血を行う際に暴れ、親からひと言「じっとしなさい!」と言われて、素直にじっと手を出しているような子に、そのような家庭の子はいないと言いきれるでしょうか。

児相の職員も、幼稚園や保育所の先生方も、とまどい、悩み、迷いながら日々の事案に対応しています。虐待に陥りかけている子どもを助けるため、子どもにとって唯一の家庭を、より良い家庭にするため頑張っています。まず、この「直言」を読んでいただいた方から、社会の構成員のひとりとして、問題意識をもっていただきたいと思います。皆で頑張りましょう。

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