2018年(平成30年)5月28日 月曜日 徳洲新聞 NO.1135 一面
湘南鎌倉総合病院
献腎移植を初めて実施
生体腎とともに移植医療へ貢献
湘南鎌倉総合病院(神奈川県)は4月28日、献腎移植を初実施した。ドナー(臓器提供者)は横浜市内の病院に入院していた40歳代の男性で、レシピエント(臓器受給者)は30歳代男性。湘南鎌倉病院の三宅克典・腎移植外科医長が執刀医を務め、同日午後10時17分にレシピエントへの腎移植手術を開始、翌29日午前2時28分に終了。術後の経過は順調で、レシピエントは無事退院している。従来から取り組む生体腎移植とともに献腎移植を車の両輪と位置付け、同院は今後も移植医療に貢献していく。
腎移植待機期間は平均15年
「献腎移植は腎移植をスタートした頃からの目標でした」と三宅医長
献腎移植は、心臓死または脳死した善意の第三者から腎臓の提供を受けて行う移植医療。湘南鎌倉病院は2013年12月に一定の基準をクリアし日本臓器移植ネットワーク(移植ネット)に入会。腎臓移植施設(18年5月時点で全国134施設)となり、献腎移植の実施が可能となった。
同院の腎移植開始は12年。慢性腎不全に対する治療法として従来から取り組んでいた血液透析(HD)、腹膜透析(PD)に加え、選択肢を広げるため、根治療法である腎移植を行う腎移植外科を同年4月に開設。
「レシピエント登録している患者さんたちも諦めずに登録を続けてほしい」と日髙部長(右)、吉岡副主任
同年12月に生体腎移植(親族から提供された腎臓の移植)の1例目を行い、今年5月中旬までに症例数は66例に上っている。「献腎移植は、腎移植をスタートした頃からの目標でした。生体腎移植のように健康な人の体を傷つけずにすむため、より推奨される移植医療だからです。もちろん、生体腎移植は有力な移植の手段ですので、これからも生体腎移植、献腎移植ともに取り組んでいきたい」と三宅医長は話す。
レシピエントの周術期管理を担う日髙寿美・腎移植内科部長は「健康な方から臓器を摘出する必要がないため、献腎移植は本来あるべき移植の姿と言えます。今回のレシピエントは登録してから約15年かかりました。現在、レシピエント登録している患者さんたちも諦めずに登録を続けてほしい」と献腎移植希望者にメッセージを送る。
提供された腎臓を移植前に、血管吻合などが行いやすい状態に整える三宅医長(右)ら(湘南鎌倉病院で)
なお、献腎移植を希望する患者さんは、移植ネットにレシピエント登録するとともに、移植手術を受ける希望医療機関をあらかじめ決めておく。ドナーが現れると、所定のレシピエント選択基準に従って候補者が選定される仕組みだ。
今回のレシピエントは他院で透析治療を受ける一方、湘南鎌倉病院での移植手術を希望していた。移植ネットによると登録から移植までの平均待機期間(膵(すい)腎同時・肝腎同時移植を除く)は約14年8カ月で、依然として献腎移植を受けるには長期間待たなければならない状況が続いている。
1万2500人に対し実施数は年間150例
移植ネットによると、脳死判定日は4月27日で、ドナーからは心臓と腎臓の提供があり、心臓は大阪府内の医療機関、左右2つの腎臓は湘南鎌倉病院と神奈川県内の医療機関でそれぞれ移植を行った。湘南鎌倉病院は左腎を移植。脳死下臓器提供では、移植を行う施設のスタッフが、ドナーが入院している医療機関を訪れ、摘出手術を実施。摘出する臓器の順番は決まっており、心臓、腎臓の順に行った。
28日午前、三宅医長、同院の五十嵐優人・外科医師、大和徳洲会病院(神奈川県)の赤羽祥太・外科医師が、摘出した臓器を運ぶ保冷ボックスなど資材を持ち、湘南鎌倉病院からドナーのいる医療機関に向かうためタクシーに乗り込んだ。
摘出手術に向かう際にはさまざまな資材を持参
腎臓の摘出が終わったのは午後4時35分。移植に適した臓器かどうかを確認したり、腎臓を保護する組織保護液を注入したりするなど処置を施したうえで、午後5時24分に出発。午後6時13分に湘南鎌倉病院に到着した。
レシピエントへの移植手術を開始したのは午後10時17分。三宅医長、五十嵐医師、日髙部長、高木芳人・麻酔科部長、石岡邦啓・腎免疫血管内科部長、松井賢治・腎免疫血管内科医師、大野加央里看護師、長谷川佳菜看護師、湘南厚木病院(神奈川県)の山本孝太・外科医師が手術に参加した。
動静脈の吻合(ふんごう)を終え、遮断していた血流を再開したのは約2時間後の24時14分。尿管の吻合や腹部の手術創の縫合など手術が終わったのは午前2時28分だった。術後、尿の出方が不十分だったため、4月29日と5月1日に術後透析を実施。その後、経過は順調で無事退院となった。
移植ネットやレシピエントへの連絡、手術室や術後に入るICU(集中治療室)の病床とスタッフの確保など、移植手術のための院内整備を行う移植コーディネーターの役割を担ったのは、湘南鎌倉病院看護部の吉岡睦美・看護副主任(日本移植学会認定レシピエントコーディネーター)。
「移植によりHDから解放されることで、社会復帰できる患者さんもいます。移植を受け元気になり退院していく患者さんの姿を見ると、やはり嬉しいですね。レシピエントの方には、ドナーへの感謝を忘れずに、身体を大切にしてほしいと思います」(吉岡副主任)
移植医療は、生体臓器移植、死体臓器移植ともにドナーの善意で成り立っているが、後者に該当する献腎移植は待機者約1万2500人に対し、実施数は年間150件前後と圧倒的に少ないのが現状。このため待機期間の長期化が続いており、待機中に亡くなる方も少なくない。
こうした状況を踏まえ、同院の小林修三・院長代行兼腎臓病総合医療センター長は「移植医療はドナーがいなければ成り立ちません。今後は臓器の提供を受けるだけでなく、逆に提供していけるような施設になることが急務です」と話す。同院は院内に臓器提供委員会を設置。入院時の問診の際に臓器提供意思表示カードの所持を尋ね、所持していない場合は必ず配布するなど、地道な活動を続けている。
「移植に携わるチームを大きくして症例を増やし、より地域に貢献していきたい」と三宅医長は意欲的だ。