上山泰男(徳之島徳洲会病院院長)

徳洲新聞2011年(平成23年)7/11 月曜日 NO.782

統合医療は補完代替医療と西洋医学を総合する新治療体系~新たな治療を行う「奄美統合医療センター」構想の実現を~

奄美群島は南西諸島のうちの薩南諸島南部にある島々です。北から奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島などがあります。島の人々の生活には、長い歴史と深い文化が息づいています。この島々で育まれた他者を思いやる心は、徳田虎雄・徳洲会理事長が唱え、実践する理念「生命だけは平等だ」と無縁ではないでしょう。

奄美の島々では、「統合医療」に必要な機能性食品や健康食品の原材料の栽培が始まろうとしています。統合医療とは、西洋医学的治療と、伝統医学や民間医療などを含む補完代替医療を結合したものです。

西洋医学的治療は、日本の病院や診療所で行われています。約600年の歴史しかありませんが、これまでに膨大な科学的データが蓄積され、その治療には、誰にでもほぼ同じ結果が得られるという再現性や普遍性があります。

補完代替医療は、個人的な経験や言い伝えによる治療法です。数千年の歴史があるものの再現性や普遍性という客観性はなく、患者さんの自己責任で行われ、大学の医学部ではあまり教えられていません。

補完代替医療には、生物学的療法(健康食品・機能性食品、食物、ビタミン、ミネラルなど)、中国伝統医学、インド古典医学のアーユルヴェーダ、瞑想、祈り、心理・精神療法、整体、カイロプラクティック、マッサージ、気功、セラピューティックタッチ、電磁療法など、数多くの療法が含まれています。

エビデンスに基づく統合医療の研究会発足

多くの外来患者さんの病気は、慢性の疾患であり生活習慣病が中心です。代表的なものに高血圧症、糖尿病、高脂血症などがあります。また、日本人の3分の1はがんで亡くなりますが、これも生活習慣病です。がんの原因は遺伝ではなく、その90~95%は生活環境因子によるものだと考えられています。

がんをはじめとする生活習慣病の原因には、喫煙、肥満、身体活動の少なさ、精神的ストレス、野菜や果物の摂取不足、動物性の肉や脂の取りすぎなどがあげられます。子どもの頃から正しい生活習慣・食生活を続けることが、病気の原因を取り除き、これを予防します。

しかし、西洋医学では、予防のための科学的データが多いとはいえません。エビデンス(科学的根拠)に基づく治療の標的も、患者さんの体全体ではなく、個々の病気になっています。医療の専門化と細分化が進み、臓器別治療が選択されるからです。

しかも現代の医学には、診断をつけることができても、まだ治療法が開発されていない病気が数多くあります。難病、再発がん、進行がんなどの患者さんは、QOL(生活の質)を上げる療養や症状緩和の手段を求めているのが現実です。

これからの医療は、個々の部位の病変を研究し治療するだけでなく、人の体全体を癒やす方法、つまり統合的な知識をもっているべきだといえます。

補完代替医療の中にはエビデンスがあるものと、曖昧なものが雑多に混在しています。エビデンスのないものを科学的に明らかにする研究を行うとともに、西洋医学との結合による統合医療の確立を目指した、一般社団法人「エビデンスに基づく統合医療研究会(eBIM研究会)」が今年発足しました。

同研究会が設立したときの代表理事は伊藤壽記・大阪大学教授です。発起人は、渥美和彦・日本統合医療学会理事長、久保千春・九州大学病院院長、前原喜彦・九州大学大学院教授、門田守人・大阪大学副学長、福澤正洋・大阪大学医学部附属病院院長、奄美出身の森正樹・大阪大学教授をはじめ合計35人です。私も発起人の一人として参加しています。

今の医学では、対応に限界がある患者さんのニーズを満たしQOLを改善する新医療。エビデンスに裏打ちされた治療体系の統合医療を確立する活動が始まったのです。

統合医療のために奄美ができること

奄美の島々の自然は、統合医療が必要とする多くのものを提供できます。杉がほとんどない奄美は、杉花粉アレルギーの患者さんに補完代替医療の一つ、転地療法の場を提供できます。健康食品・機能性食品のショウガ、ウコン、アガリクスなどもすでに栽培されています。

奄美群島に暮らす人々が長寿である要因として、特に食生活が無視できないことは周知の事実です。これらの食経験のある食材に加え、島々に自生する多種類の植物には、抗がん作用、抗肥満作用、アンチエイジング作用などがある貴重な化学物質が豊富に含まれていることが明らかになっています。

今年3月、徳田徳洲会理事長を理事長に迎え、NPO法人(特定非営利活動法人)「奄美機能性食品開発研究会」が発足しました。伊藤教授や、徳之島出身の屋宏典・琉球大学熱帯生物圏研究センター教授が理事として加わりました。奄美で栽培されている植物を活用する機能性食品・健康食品の開発研究・製造・販売をサポートします。その活動の一環として、徳之島の行政と製薬会社、そして同研究会の三者が共同して新食品開発を行います。その第一歩として、近くボタンボウフウなどの栽培を開始します。

藁にもすがりたい気持ちで補完代替医療を利用する末期がんなどの患者さんに対して、徳洲会病院での西洋医学的治療に加え、健康食品・機能性食品による統合医療としての治療の提供が、近い将来可能となります。

これが奄美統合医療センターの構想です。

これまで全国の徳洲会グループの人たちが、奄美の医療レベルの維持・向上・発展のため、ひたむきな援助を続けてきました。私たち離島医療に携わる者も、主体的な取り組みを続けなければなりません。これからも、皆で頑張りましょう。