満元洋二郎(名瀬徳洲会病院総長)

徳洲新聞2009年(平成21年)3/30 月曜日 NO.665

地域に信頼される医療・福祉モデルの構築に向けて ~それぞれの地域に応じた病院づくりは徳洲会の使命だ~

3月15日、鹿児島県の奄美大島にある宇検村で、「宇検村健康友の会総会」が開催されました。総会には飛田稔会長、國馬和範・宇検村村長、徳田たけし代議士夫人の徳田美加さん来席のもと、61名が参加されました。多数の出席があったのは、今年4月から「国民健康保険宇検診療所」が徳洲会グループに委託・運営される見通しとなったことによると考えられます。

これは、奄美の選挙の歴史を知る地域住民の皆さんにとって、大変感慨深いことだと思います。

07年9月25日、國馬村長から名瀬徳洲会病院に、「絶対に宇検村を無医村にはしたくない。医師が確保できない場合には、徳洲会グループで宇検診療所を引き受けてもらえないか」との打診がありました。この背景には、「奄美は一つ」という信念をもつ徳田たけし代議士の自民党入りや、徳洲会が離島・僻地で実践するローコスト・ハイクオリティな医療、そして奄美群島全体で1738人の雇用を生み、毎年97億円もの経済効果を出している実績があり、ごく自然な流れだと思われました。

しかし、当たり前のことを頭で理解できても、実践に移すのは難しいものです。しかも、かつて“保徳戦争"と呼ばれた激しい選挙戦の中心地だった宇検村が、徳洲会に診療所運営を依頼するには、非常に厳しい判断があったに違いありません。私たちにも大きな衝撃でした。

「わかりました、前向きに検討します」と、返事をしました。私は隣の住用村の出身だけに、無医村の苦しみや不安は理解できます。心の中では「絶対に引き受ける」と決めていました。人は不思議な動物で、やると決めたらやるための理屈を、やらないと決めたらやらない理屈を考え出します。結局「やるか、やらないか」、「やったか、やらなかったか」のどちらかです。

徳洲会の武士道精神にも似た文化が不可能を可能にする

私は生来の楽観主義者で、「どうにかなるさ」と思い、「どうにかできる」という“根拠なき自信"がすぐに湧きます。ただ、「どうにかする」ための持続力が足りません。最後までやり抜くエネルギーは理屈では得られず、実際に体感することが必要であり、そのためには現場に足を踏み入れるのが一番でした。

そこで奄美本部、看護部、事務部の協力を得て、宇検村で医療講演を行うことにしました。08年4月から6月にかけて15集落で講演を行い、計335名の方に聴講していただきました。これまで宇検村で、これほど多くの方々が参加されたことはありません。講演では、診療所の運営に話が及び、無医村になる不安や、徳洲会への強い期待が切実に伝わってきました。「やはり、やるしかない」のです。

09年1月24日に行われた徳洲会最高幹部会、続いて31日の徳洲会医療経営戦略セミナーの全国院長会で、「宇検村を無医村にさせられない。徳洲会グループ全体で支援しよう」との決議がなされました。これで私たち離島・僻地での医療・福祉に従事する者は、安心とともに困難に立ち向かう勇気を得ました。

『国家の品格』の著者、藤原正彦氏は、同書の中で「日本人は、お金よりも道徳心や倫理観というものを大切にするという意味において異常である。これは武士道精神と言い換えることができ、武士道精神とは惻隠の情、卑怯なことを恥じる精神、他人への思いやり、故郷を懐かしむ心(郷愁)、情緒的な心、形を大事にすること、美的感受性などである」と述べています。徳洲会文化の根底にも、日本人特有の異常とも言える精神性が、脈々と流れているのでしょう。

徳洲会内部の道州制の確立が離島・僻地医療を存続させる

総会では、國馬村長から「福祉に関しても、村としてできるだけの協力をします」との言葉を頂戴しました。徳洲会と自治体との新しい形の協力体制が見えてきました。村が望むローコスト・ハイクオリティな医療・福祉は、徳洲会が昔から実践しています。単独の医療施設では不可能なことも施設間の協力で「生命だけは平等だ」の理念実現に近づくことができます。

その具体策としては、まず予防医療の普及。最新の医療機器を投入し、確実な診断と最善の治療を実施すること。患者さんの投薬状況・診療内容・画像診断などの情報共有のため、電子カルテ導入による奄美全体のネットワークの形成。そして救急搬送に備えるドクターヘリの配備。福祉では在宅介護・医療の充実や、病児保育、学童保育、24時間保育が可能な託児所の設置などがあげられるでしょう。

これらを実現するには、徳洲会グループだけでなく医師会や他の介護グループなどと協力して医療資源を有効に活用するネットワークが必要です。今回、徳洲会として初めての公設民営の診療所の運営を通して自治体と協力体制ができます。奄美から日本の将来の医療モデルを構築したい私たちにとって、これは絶好の機会だと思います。奄美群島を世界一安全な島々にするには、黒字経営を維持しなければ長続きしません。それには、しっかりとしたビジネスモデルの構築が不可欠となります。

離島・僻地への永続的な医師・看護師派遣は、徳洲会でも厳しい現実があります。医師・看護師の絶対的不足の中で最善の医療を行うには、各院長をはじめ全職員の良心に委ねられているところがあります。徳洲会内部での協力体制が必須で、離島ブロックでは、沖縄、九州ブロックとの人材交流が必要です。

徳田虎雄理事長が提唱する「ヘルシーリゾートアイランド構想」の実現には徳洲会内部での道州制の確立、自治体や各医療福祉団体との連携が欠かせません。そして理事長の言う「無理な努力、無駄な努力、無茶苦茶な努力」が大事です。頂点にまで上りつめたと満足するのではなく、そこからさらに踏み出す“百尺竿頭に一歩を進む"覚悟をしなければなりません。

皆で頑張りましょう。