満元洋二郎(名瀬徳洲会病院総長)

徳洲新聞2008年(平成20年)8/11 月曜日 NO.633

離島僻地医療と救急医療は徳洲会の両輪を成している ~“生命だけは平等だ”の理念が離島僻地医療を支えている~

「外科医は依頼された患者さんを絶対引き受けろ!患者さんにとって医者は最後の砦なんだから!」。これは、私が指導を受けた佐賀県立病院好生館の前館長、河野仁志先生の口癖でした。  私は河野先生のご指導の下、年間300例余りの手術を執刀させていただきました。入局3年目でしたが、外科医は先生と私の2人だけなのでかなりの数です。医師が少ないのは悪いことばかりではありません。その病院には5年間在籍し、手術症例数は1200例余りでした。  ある寒い冬の朝、40代の女性が心肺停止状態で搬送されてきました。1時間13分の心肺蘇生後に息を吹き返されましたが、予後に起こり得る心不全、急性腎不全、肝機能障害などに備え、その後は1カ月間の集中医療。その間、経験したことのない腹膜透析も行い、朝7時から夜中の2時まで患者さんのために頑張りました。しかし時間が経つにつれ疲労困憊し、「何で他人のためにそこまでやらなきゃいけないの?何でこんなに頑張っているのによくならないの?」と考えている自分がいました。  やはり人に恩を着せることはよくないのでしょう、力が出ません。その時、私はこう考えました。「これは自分の仕事なんだから。プロなんだから」と。  医者は患者さんを治すのが当たり前。結果を出すために全力を出すのは当然のこと。なぜなら私はこれで飯を食っているのだから。2カ月後に後遺症もなく患者さんが退院された時、当然のことをしたとはいえ嬉しく思いました。仕事を成し遂げた充実感、患者さんに貢献できた喜びのゆえであったと思います。

実績に基づく責任感・使命感が夢と希望、ロマンの実現につながる

私たち離島僻地で医療に携わっている者にとっては、救急患者さんを断らないのは当たり前のことです。スタッフの人数が少なく、専門外であろうとも、医師である以上最後の砦であるという現実から逃げることはできません。その状況で何が最善であるかを、常に考えなければならないのです。先日、都市部のある医師が「患者さんのためにはなるべく早く専門医に診てもらうべきで、安易に救急は受け入れないほうがいい」と言いました。一理あると思いましたが、何か違和感がありその疑問をぶつけてみました。「先生が救急を断った患者さんはどうなりましたか?」と。何も知りません。ただ専門医がいないから、断っただけだったのです。患者さんのためにという大義名分を掲げ、実は逃げていただけ。都市部では医療訴訟があり大変と耳にしますが、離島医療を行う者にとっては結果がすべてです。  私は5年前に“生命だけは平等だ”という徳洲会の理念に共感して入職し、郷里の奄美に戻りました。瀬戸内病院で勤務して2カ月後に徳田虎雄理事長とお会いする機会がありました。私が「瀬戸内病院はお金もないし、実績もありません。しかしやる気だけはあります。投資してください」とお願いすると、「必要な物を挙げて報告しろ」の一言が返ってきました。間もなく肝臓切除もできる最新の腹腔鏡下の手術システム、内視鏡システム、MRI等が届きました。  これには参りました。私も日本人ですから恩を受けた以上義理・人情が生じます。また感服した人には敬する心が働きます。私もこの理念を実現するために精一杯努力しようと決めました。  アフリカ諸国、ブルガリア、イギリス、タイ等多くの国から医療使節団が奄美・沖縄を訪れました。その現状を見学して感銘を受け、母国に徳洲会の理念、医療を広めたいと言われたことは、私たちに大きな自信と誇り、使命感を与えてくれました。  もし徳洲会の病院施設がなかったら、奄美にどれだけの人々が残っていたのでしょう。徳洲会の偉業を見ると、人は何を言ったかではなく何をやったかが大事だということがよくわかります。この事実は大きな責任感をもたらしてくれ、私たちは使命感・責任感で離島僻地医療を担っていきたいと思っています。

理想と現実を近づけるためには私たちの最大の努力こそ必要だ

徳洲会奄美ブロックの医療・福祉は、他の徳洲会グループの仲間、後援会や友の会の皆様、そして地域の方々の支援により成り立っています。この事実を謙虚に受け止め、離島僻地医療を確立していかなければなりません。今後の奄美ブロックの事業として電子カルテを導入し、奄美群島の病院間でネットワークを組みたいと思っています。徳洲会のどの島の病院・診療所を受診しても、投薬状況・診療内容・画像診断が参照できるということは素晴らしい発展です。離島間で応援し合っても戸惑うことがありませんし、少ないスタッフで大きな効果が得られます。  そのためには光ファイバーの敷設が必要です。また奄美を世界一安全な島々にするためには、ドクターヘリも配備しなければなりません。高齢者医療においても、奄美は都市部の20年先のモデルです。私たちがそのモデルを全国に広めるという気概が必要です。そして現実と理想の距離を縮めるためには、政治・行政との連携も必要で、あらゆる手段を講じなければなりません。それを実現するには徳洲会奄美ブロックの職員がまず力を結集し、自立する努力をしなければなりません。政治・行政に対する活動にも積極的に参加するべきで、やはり無茶苦茶な努力が欠かせないでしょう。  ある本に次のような文章がありました。「富や位や才知など結局人の愛に値しない。要するに徳を補助するにすぎないものである。真に人を愛すればその人の徳を厚くするように仕向けてやるべきである。つまらぬ人間は、人を愛するにも一時の間に合わせ(姑息)ですませる。金があれば金をやり、権力があれば利権を与え、それが愛する相手のためにどうなるかは深く考えない」。私たちは、徳田理事長に深く愛されています。そして仕事のご褒美は仕事です。  皆で頑張りましょう。