直言
Chokugen
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直言 ~
堀 隆樹(ほりたかき)
鎌ケ谷総合病院(千葉県) 院長
2025年(令和7年)02月17日 月曜日 徳洲新聞 NO.1479
“職員の安心・安全こそが、患者さんの安心・安全につながる”。2020年4月に当院院長に就任した直後、「直言」に書いた言葉です。新型コロナのパンデミック渦中にあった当時、この感染症の情報は非常に少なく、若年者でも死亡事例が出るという状況でした。その脅威から職員を守るという私の意志を、この言葉で表現しました。今、思い返せば、新米院長にとって精一杯のことだったと思います。
「職員の安心・安全」の重要性に対する気持ちは今も変わっていません。現在、当院は増床や基幹型臨床研修病院指定という2つの目標に向け動いていますが、そのためにも「職員の安心・安全」は欠かせないのです。今回は「職員の安心・安全」とはどのようなものか、そして、当院の目標にとって、なぜ大切なのか記します。
心理的安全性という言葉をご存じでしょうか。組織の中で自分の考えや気持ちを、誰に対しても安心して発言できる状態を表す度合いのことで、16年にGoogleが社員の心理的安全性の高さと、チーム状態の良さの相関関係を示したことで、注目されるようになりました。私は医師として約40年過ごしてきましたが、患者さんに親切に、優しく、適切に対応するためには、医療者自身の心の状態が大切だと感じています。私は職員に対し、厳しく教育をしないということだけではなく、職員相互の交流の機会、とくに多職種間の交流の促進が、さまざまな場面で活発な意見交換や議論につながると、日々感じていますが、そのための当院の取り組みとして、①鎌ケ谷アート祭の実施、②多職種合同の小委員会の再開、③ハラスメント相談窓口、④各種クラブ活動の促進、⑤東京ディズニーランドホテルでの忘年会があります。
院長になって5年、これらの取り組みによって、心理的安全性を高め維持すること、つまり「職員の安心・安全」を大切にしてきました。
では、この「職員の安心・安全」は、当院が抱えている課題、将来の構想に対し、なぜ重要なのでしょうか。まずは増床についてです。当院では、27年4月を目標に89床を増床し、総ベッド数420床となるよう動いています。昨年、89床の回復期病床増床が、その後、区分変更申請が認められ、急性期病床252床から292床、回復期病床40床から89床になります。これにともない職員の増員計画が練られており、とくに看護師とリハビリテーションスタッフの増員が喫緊の課題です。増員のためには、職員の心理的安全性が保たれ、「安心・安全」と思える職場にすることが最も大切だと考えます。
次に、基幹型臨床研修病院指定の取得(歯科はすでに取得し24年4月に臨床研修開始)についてです。当院の医師年齢構成は、かなりの高齢化が進んでいます。院長になった当時、臨床研修指導医もほとんど在籍していない状況でしたが、積極的に指導医講習を受講してもらうようにしました。その結果、24年3月から協力型として、当院で初めて研修医を新潟医療センターから受け入れ、さらに、その翌月からは基幹型として歯科研修医を受け入れました。
最初は、その対処法に戸惑いがありましたが、2カ月間継続して、同センターから研修医を受け入れていくにしたがい、医局の雰囲気にも少しずつ変化が出てきました。研修医との交わりが医療に対する姿勢にも影響しているようで、良い変化だと思います。
また、研修医の生活面での相談は、総務課職員が懇切丁寧に当たっており、同センターと連絡を密に取ってくれています。ディズニーチケットのプレゼントも好評のようです。さらに、新専門医制度に関しては、現在、限られた診療科しか取得できない状況ですが、基幹型になれば、範囲をかなり広げることができ、専攻医募集も可能になると期待しています。この動きには、医局以外からの期待も大きいようで、病院一丸となって進めていきたいと考えています。
「職員の安心・安全」が保たれることで、研修医も安心して働け、さらに研修医の存在によって、職員が現状を見直し、より職員自身の安心・安全が守られるように――こうした好循環が生まれることを願っています。
皆で頑張りましょう。