直言
Chokugen
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直言 ~
高松 純(たかまつじゅん)
瀬戸内徳洲会病院(鹿児島県) 院長
2024年(令和6年)06月24日 月曜日 徳洲新聞 NO.1446
今年4月1日に鹿児島県の離島、奄美大島にある当院院長を拝命しました。九州大学医学部を卒業後、同大学麻酔科学教室に入局し、40年近く、主に都市部の中核病院で臨床麻酔に携わり、その後は対面診療、そして家族とのかかわりを大切にしながら医療活動をしてきました。自分の心の中に、大学生時代にかかわった沖縄県の離島、与那国島の高血圧検診活動の記憶・思いが昨年末、ある契機でよみがえり、徳洲会への入職を決意しました。
臨床の日々を過ごすなかで、継続してかかわってきたことがあります。皆さんはEPINetという言葉をご存じでしょうか。1991年に米国バージニア大学のJanine Jagger教授らによって開発された針刺し・切創および皮膚・粘膜汚染防止のための“ばく露実態把握報告”です。初めて内容を見た時、私が所属している大規模病院の実態をこの報告書で解析してみようと思い、過去の院内報告書を調べました。ところが、内容は反省文に終始し、いつ、どこで、どのような状況で、どういう機材で、どういう時に事案が発生したのか、何も知ることができませんでした。エピネットをツールとして用い、発生した事案をデータとして残し、解析して、これからに役立てることができると思いました。94年に東京大学の木村哲教授(当時)を代表とした職業感染制御研究会で、エピネット日本版が開発され、エイズ拠点病院を対象とした当時の厚生省の班研究に活用され、全国に普及するようになり、研究成果は行政のガイドラインの基礎資料に、また、種々の安全機材の評価にもつながりました。
さて、当院のある瀬戸内町では、晴れた日には青く澄み切った海と、その向こうに加計呂麻島が見え、さらにその先には請島、与路島があります。瀬戸内町は奄美大島南端に位置し、大島海峡をはさみ、これら有人3島を含んだ行政区域は240㎢。人口推移を見ると、56年は2万6,371人、2020年には8,546人に減少しています。
着任して最初に驚きを隠せなかった新聞記事の見出しを紹介します。
「奄美群島の医師たちは日本赤十字を主体とした血液備蓄所再設置を要望します 島民の皆様は、どう思いますか。大島郡医師会、鹿児島県医師会、徳洲会、民医連」(『南海日日新聞』全面意見広告、23年10月17日)
「血液製剤不足、やむを得ず 『離島の現状を知って』と医師」(同紙群島リポート、24年5月25日)
「生血輸血に備え訓練 供給要請から手術室まで 県立大島病院」(同紙、24年5月26日)
その後も「登録者662人に 陸自隊員の協力で増加 奄美大島地区緊急時供血者登録制度協議会」
いろいろ調べてみると、『国内における現状の血液製剤等の概要』(防衛省、令和5年10月)という資料の中に、国内(離島)における院内血(院内で採血された血液)輸血実施状況が記され、22年に至るまで年に10例程度あることがわかりました。
“生血輸血”──久しぶりに聞きました。思い返せば1980年代前半、大学病院でもご家族に献血手帳を集めるように指示し、手術当日には同じ血液型の人に待機してもらい大がかりな手術を実施していました。90年代には成分輸血が主流になりました。日本輸血細胞治療学会誌(2019年)では院内血の輸血実施率は減少傾向にあり、14年には100床以上の医療施設で院内血採血実施率1.5%と記載があります。
これが、日々医療を実践してきた過去であり、現在の一面です。当院は徳洲会の離島病院のなかで60床と一番病床数の少ない病院ですが、この現在をしっかり認識しながら未来に向かって医療を提供し、安心・安全、そして住みやすい環境の一助になるように日々活動しています。
今までも、そしてこれからも当院の医療活動の継続には、徳洲会グループの支援の下、離島グループの連携協力はもとより、地域医療連携を密にしていく必要性をひしひしと感じています。地域医療連携のなかで自院の立ち位置を認識し、周囲の医療・介護施設とともに行政と協調し、何よりも生活を共にしている人の思いを大切にしながら医療を継続していきたいと思います。
皆で頑張りましょう。