直言
Chokugen
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直言 ~
太田 智之(おおたともゆき)
札幌東徳洲会病院 院長
2022年(令和4年)04月04日 月曜日 徳洲新聞 NO.1332
この2年余り、世界の医療は新型コロナ感染症対策が中心だったと言っても過言ではありません。もちろん、コロナ以外の疾病への注力も必要であることは言うまでもないことです。後述の2事業は当院が従来から積極的に取り組んでいるものですが、基本的に新型コロナ感染症とはかけ離れているように見えたものの、じつはそうではなかったということを最近、感じましたので、それぞれの取り組みの歴史と現況を報告します。
まず、医学研究所についてです。診断や治療の質を高める発端は、診療最前線で生ずる疑問が源流となります。その解決手段を研究という形で実現するため、2011年、当院に臨床研究センターが発足しました。12年には北海道初の民間病院附属研究機関として文部科学省より認可されました。民間病院が研究センターを運営・維持することは、さまざまな困難が予想されましたが、当時の清水洋三院長の決断と法人理事会の英断に心から敬意を表します。17年には「札幌東徳洲会病院 医学研究所」として実験室を整備し、細胞培養や遺伝子解析を実施する空間に、遺伝子の塩基配列を高速に読み取る次世代シーケンサー(NGS)など最新鋭の設備を揃え、分子生物学やゲノム(全遺伝情報)科学に秀でた研究員・技術員が日々、実験を進めています。また臨床研究支援部門を設立して生物統計の専門家も常駐し、徳洲会グループの研究者からのコンサルトも受け入れています。
現在、常勤医師に加え共同研究先の大学院生が各部門で研究活動を精力的に進め、多くの手法開発・論文発表を行い新診療への展開を目指しています。大学とのコラボのなかで大学教室から当院への医師派遣を開始していただけた例もありました。20年3月、新型コロナが発生して間もない時期は、院内検査でPCR検査を行う施設は地域できわめて限られていましたが、当院ラボスタッフは、すでにそのノウハウをもち、早期段階から休日・昼夜を問わず院内PCR検査を担当し、地域での早期診断への協力や院内感染対策に大きな役割を果たしました。
ふたつ目は外国人受け入れについてです。13年度に開設した国際医療支援室は初年度200人の受け入れから開始し、以後、順調に受け入れ数が増加しました。18年度1552人、19年度1827人と訪日観光客の増加と比例して推移しましたが、その後はコロナ禍による入国規制で旅客外国人が激減しました。しかし、日本在住の外国人は18年度798人、19年度856人、20年度848人、21年度は1月までで1078人と徐々に増加しています。これは当院が外国人診療・健診を積極的に行っているという認知が地域に広がっている証しと考えます。
さらに20年7月には海外渡航コロナPCR検査サービスを開始しました。外国人が母国に帰国、または日本人が海外出張する機会に、PCR陰性証明を必要とすることに、予想を超えるニーズがありました。20年当時、本サービスに対応できる医療機関は全道で数カ所のみで、現在は経済産業省登録機関が増えたものの、とくに中国大使館指定機関で公式陰性証明を作成可能なのは当院を含め2カ所のみです。そのため陰性証明の発行を希望する方が次々と来院され、最多数の中国渡航者を中心に22年1月末時点で累計2307人に陰性証明を発行しました。これらの海外渡航PCR検査を含めると、今年度の外国人受け入れ数は1月実績ですでに1987人に上り、コロナ禍前を含めて過去最高に達しています。
この2年間、電子カルテの一番目立つ場所に、新型コロナ感染症診療での当院の使命をふたつ掲げています。①有事における救急医療として、全職員が協働し新型コロナ感染症及び疑似患者さんを受け入れる、②ウイルスとの今後の共存も見据え新型コロナ感染症以外の疾病への注力も継続する。これらを職員は毎日、最初に見て勤務を開始します。一見関連が乏しいと思われる取り組みでも、見方とやり方を変えることでコロナ/非コロナに関係なく相補的な医療貢献ができる可能性があります。世界的パンデミック(大流行)の終息までには、もう少し時間がかかりそうですが、さまざまな病気で困っている方々のためにも、皆で頑張りましょう。