
徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest

徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
2026年(令和8年)07月13日 月曜日 徳洲新聞 NO.1551 4面
羽生総合病院(埼玉県)は介護施設や在宅患者さんを対象とした独自の「お迎え搬送」システムを推進している。行政の救急負担を軽減しつつ、医師の同乗や徹底した接遇・走行訓練により、24時間体制で迅速かつ安全な搬送を実現。地域医療への貢献と救急救命士のやりがい向上に加え、今年度の診療報酬改定で強化された「救急搬送診療料」や「救急救命管理料」の算定にも大きく寄与している。
竹花副主任(右から2人目)をはじめ救急救命士は安全・迅速な搬送に向け日々訓練
車内で資器材の点検を行い万全な体制でお迎え搬送
同院のお迎え搬送は、平日の夜11時までは医師1人と救急救命士2人(または看護師・事務職員)、平日夜間と休日は救急救命士3人(または看護師・事務職員)で対応する。施設から同院に直接電話が入り、病院の救急車でお迎えに行くため、初期治療開始までに大幅な時間短縮が可能だ。地元の羽生市消防署からは、「本当に緊急性の高い事案に行政の救急車が使えるようになり、非常にありがたい」との声が寄せられている。
現在、お迎え搬送の対象となっているのは、主に介護老人保健施設や特別養護老人ホーム、有料老人ホームなどの施設。救急車を呼ぶほどではないものの、発熱や転倒で心配な「軽症」の段階でも相談しやすいと好評だ。ほとんどのケースで、そのまま入院することになるが、早期治療による早期退院、ひいては入院期間の短縮につながっている。
さらに、消防署の救急車や施設の車で受診する際とは異なり、同院のスタッフが直接迎えに来るため、施設職員が付き添う必要がないのもメリット。夜間など、限られた人数で運営している施設にとって、職員が同行しなくてすむシステムは非常に使いやすく、負担軽減に大きく寄与している。
この取り組みは最初から順調だったわけではない。当初は件数が少なかったが、髙橋暁行院長が掲げる「人間にできて、AIにはできないこと。それは笑顔だ」という言葉を胸に、救急救命士たちは接遇を重視し取り組んできた。患者さんだけでなく、施設職員に対しても丁寧なコミュニケーションを重ねることで信頼関係を築き上げた結果、開始当初の2023年度は年間16件だった実績が、24年度は103件、25年度は402件と飛躍的な伸びを見せている。
竹花一希副主任(救急救命士)は「患者さんもつらいと思うので、笑顔で接することを心がけています。施設職員さんとのコミュニケーションをしっかり取ることで生まれた信頼関係の結果が、今の件数につながっていると感じています」と力を込める。同院では、現在14人の救急救命士が所属しており、夜間でも最低3人は院内に待機できるよう勤務調整を実施。救急救命士を配置できない時は看護師・事務職員が同乗し、病院全体で365日24時間体制を維持している。
施設への周知活動では、まず同院と連携関係にある42施設を直接訪問し、無料であることや施設職員の付き添いが不要であることなどを丁寧に説明してきた。今年5月には連携施設以外にも周知活動を拡大。それまで月に約40件で推移していた件数が、一気に71件に急増した。今では片道30分以上かかる施設からも要請が入るほど、地域に不可欠なシステムとして定着している。
この取り組みは、今年度の診療報酬改定で強化された「救急搬送診療料」や「救急救命管理料」の算定にも大きく寄与。ただし、佐藤あけみ看護部長は「今年度の診療報酬改定を受け、お迎え搬送を始めたわけではありません。地域の高齢の方が早く治療を受け施設へ戻れるように尽力していきたいです」と、地域貢献への強い意志を示す。
お迎え搬送の拡大には、救急救命士たちの厳しい訓練と技術が不可欠だ。同院では、消防署での「救急車同乗実習」を全員が2日間かけて受け、実際の現場での救急隊の動きやスムーズな活動のあり方を学んでいる。さらに、救急車の運転に関して院内独自の走行テストを実施。サイレンを鳴らして運転するには大きな危険がともなうため、走行テストに合格した者だけが公道での運転を許可される。
今後は、施設だけでなく、在宅療養中の患者さんへのお迎え搬送もスタートする計画。在宅医療の現場では、夜間に患者さんの体調が悪化した場合、これまでは訪問看護師が駆け付けてから、状況に応じ救急車を手配していたが、今後は家族からの連絡を受けた後、同院のお迎え搬送が直接自宅へ向かい、そのまま病院へ搬送することが可能になる。
在宅へのお迎え搬送では、介護施設のように医療・介護のプロが常駐していないため、より一層、救急救命士をはじめとする同院職員の迅速な状況判断と家族への細やかな精神的ケアが求められる。夜間に急に体調を崩した高齢者を前に、パニックになる家族は少なくない。行政の救急車を呼ぶべきか迷うグレーゾーンの病状でも、同院が24時間体制で直接自宅まで迎えに行く安心感は、地域在宅医療の大きな支えとなる。
病院の救急救命士として、単に院内の補助作業にとどまるのではなく、自ら救急車に乗って現場へ赴き、初期対応を行うこの取り組みは、大きなやりがいにもつながっている。竹花副主任は「以前いた病院では、患者さんに触れることすら許されない補助者のような立場でしたが、当院では、より医療の現場で活躍できるだけでなく、病院の外に出て活動することもできます」と笑顔。
同院の取り組みはグループ内外からも注目を集めており、事例発表や視察の要望が相次いでいる。お迎え搬送件数は今後さらに増加する見込みだ。佐藤・看護部長は「救急救命士がやりがいをもって、1秒でも早く現場に到着して初期対応できるよう、看護部としても働く環境を整えていきたいです」と展望を語る。竹花副主任も「今後も救急救命士の知識・技術をさらに向上させ、地域の方々に少しでも貢献できるよう訓練を続けていきたいです」と意欲的だ。