徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2026年(令和8年)05月18日 月曜日 徳洲新聞 NO.1543 1面

山口・野崎病院附属研究所主任研究員
米国物理学会誌に論文掲載
細胞の自律的最適化を理論証明

「個々の細胞がランダムに増減することこそ、最適バランスを実現するシステム」と山口・主任研究員

野崎徳洲会病院附属研究所(大阪府)の山口智之・免疫システム研究部主任研究員が執筆した論文が、4月29日付で米国の物理学会誌『Physical Review Research』に掲載された。タイトルは「Self-Balancing of Cell Populations via Martingale Turnover with Amplification」(増幅をともなうマルチンゲール型の新陳代謝による細胞集団の自律的バランス調整)。マルチンゲールとは、未来の期待値が最直近の値とつねに同じになる確率過程。

生物のなかでは、免疫を惹起する細胞とそれを抑制する細胞など、基本的に細胞数比率のバランスがうまく調整されている。その調整は、何らかの指令役が厳格にコントロールしていると考えられてきたが、詳細も全体像も明らかになっていなかった。

山口・主任研究員は、細胞種ごとの特異的な制御(司令役)なしに、ランダムな増加と減少の繰り返しだけで、細胞集団のバランスが自律的に整う仕組みを数学的に示す理論研究を試みた。具体的には、リンパ節などひとつの領域内で2種類の細胞をランダムに選択し、増殖や細胞死を繰り返すシミュレーションを行った。

その結果、細胞種ごとの増減を調整する指令役がなくても、それぞれの細胞が平等に同じ確率で増殖と細胞死を繰り返した場合、細胞比率の期待値が現比率と同じマルチンゲール過程となること、細胞死の確率が少ないバランスへと収束することが判明した。個々の細胞がランダムに増減(ターンオーバー)することこそが、細胞が減りにくい最適バランスを実現する自己調整メカニズムとして働くことを指摘した。

さらに、細胞比率の変化は、物理学で運動量変化を表すランジュバン方程式での質量を、総細胞数という変数に置き換えた数式で記述できたことも報告。「生物は重さ・変化しにくさを調整するシステムと言えます」と示唆。

「“生命とは何か”に迫れる面白さがあります。今回の研究で、それぞれの細胞にとって増えるチャンスも死んでしまうリスクも平等に与えられていることが、適応性の鍵であるとわかり、予想外で面白い」と山口・主任研究員。「生物や免疫には、生成AI(人工知能)のような自律的学習能の仕組みがありそうです」と今後の研究の深化に期待を寄せる。

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