徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2026年(令和8年)03月02日 月曜日 徳洲新聞 NO.1532 1面

男性30万人以上を対象「大規模ゲノム研究」
2型糖尿病リスクとY染色体との関連解明に成功
徳洲会が試料4割超提供したBBJ活用し成果

徳洲会グループは東京大学をはじめとする研究グループとともに、計30万人以上の男性を対象とした大規模ゲノム研究により、男性特有の2型糖尿病リスクを解き明かす研究成果を2月25日に発表した。特定のY染色体グループでは2型糖尿病リスクが低下する一方、体内の一部の細胞でY染色体が失われていると、2型糖尿病リスクが上昇することを明らかにした。これまでの大規模ゲノム研究では十分に考慮されてこなかったY染色体と疾患の関連の重要性を示すとともに、より精度の高い疾患リスク評価や将来の個別化医療の発展に貢献する成果だ。研究内容は2月23日付で国際学術誌『Nature Medicine』にオンライン掲載された。

国際学術誌『Nature Medicine』へ掲載

図1 図2

論文タイトルは「Genetic regulation across germline and somatic variation on the Y chromosome contributes to type 2 diabetes」。研究成果を発表したのは、東京大学大学院医学系研究科遺伝情報学の佐藤豪助教(筆頭著者)、同・岡田随象教授をはじめ、大阪大学、理化学研究所、虎の門病院、慶應義塾大学、東北大学、愛知県がんセンター、国立がん研究センター、徳洲会グループの一団。

今回の研究では、徳洲会グループが構築に全面協力した日本のBBJ(囲み参照)や、英国のUKバイオバンクなどで収集された計30万人以上の男性のヒトゲノム(全遺伝情報)を用いて、男性に特異的な染色体であるY染色体の生殖細胞系列変異(ハプログループ)および体細胞変異(Y染色体のモザイク欠失)を網羅的に解析し、疾患リスクとの関係を調べた(図1)。

Y染色体のハプログループは、父から子に受け継がれる遺伝情報である生殖細胞系列変異のひとつで、Y染色体上の遺伝的変異に基づいて分類される。一方、Y染色体のモザイク欠失(loss of Y chromosome:LOY)は、後天的に獲得される遺伝子変異である体細胞変異のひとつで、加齢などにともない、体内の一部の細胞でY染色体が失われる現象を指す。近年では、いくつかの疾患との関連が注目されている。いずれも疾患との関連について、これまで十分に解明されていなかった。

遺伝的に低リスク・喫煙歴がない Y染色体の体細胞変異でリスク増

図3 図4

解析の結果、日本人集団は主にハプログループC(10.3%)、D(34.0%)、O(53.7%)に分類。このうちハプログループDは日本人集団に特有な系統だった(縄文祖先に由来すると考えられる)。他方、LOYは日本人集団および英国人集団のいずれでも加齢や喫煙と強い関連を示し(図2)、解析対象とした日本人集団の約8.0%、英国人集団の約11.7%で認めた。

また、Y染色体ハプログループとLOYが、多様な疾患とどのような関連を有するのかを網羅的に解析。ハプログループDが2型糖尿病の発症リスク低下に有意に関連することを明らかにし、LOYは日本人集団で2型糖尿病や気管支喘息など複数の疾患の発症リスクを上昇させることがわかった(図3)。

こうした結果から、Y染色体のハプログループとLOYのどちらも、日本人集団の2型糖尿病リスクと関連していることが明らかになった。約15万人を対象とした東北メディカル・メガバンク計画の独立した日本人一般住民集団でも同様の傾向を確認した。

さらに詳細な解析を行ったところ、遺伝的に2型糖尿病リスクが低いと評価されている男性や、喫煙歴のない男性で、LOYの影響がより顕著(リスクが上昇)だった(図4)。

このほか研究グループは、ポリジェニック・リスク・スコア(PRS)と呼ばれる大規模ゲノム解析の結果をもとに個人ごとの疾患発症リスクを予測する指標に、Y染色体ハプログループとLOYの情報を組み合わせた2型糖尿病の新たなリスク予測モデルを構築し、予測精度を検討。予測能の有意な向上を確認した。

加えて、細胞ごとの遺伝子発現を解析し、疾患に関与する特定の細胞種を詳細に調べることができるシングルセル遺伝子発現解析を行い、LOYを詳細に検討。血液中の免疫細胞を対象とした複数のデータセットを統合解析した結果、LOYには明確な細胞種特異性(特定の細胞種でのみ、ある現象や分子変化が選択的に認められる性質)が存在し、体内に侵入した病原体の排除や炎症反応に関与する単球で高頻度に認めた。

膵臓由来のデータセットでも同様に解析したところ、膵臓でもLOYに細胞種特異性が存在し、2型糖尿病の病態で重要な役割を担うベータ細胞(膵臓に存在し、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを分泌する細胞)にLOYを多く認めた。

成果を治療や予防につなげるには 異分野の研究者との連携が不可欠

今回の研究で示したY染色体の情報を組み込んだリスク評価・予測の枠組みは、従来の手法を補完するものであり、より精度の高い疾患リスク層別化や個別化医療の実現につながることが期待されている。

佐藤助教は「本研究では、Y染色体の体細胞変異(LOY)が2型糖尿病リスクに関与することを明らかにしました。今後は、その分子・細胞レベルでの機能異常をさらに詳細に検証していく必要があります」と指摘したうえで、「私たちはゲノム解析を強みとしていますが、成果を治療や予防へとつなげるためには、異分野の研究者との連携が不可欠です。また、LOY以外の体細胞変異についても同様の影響がある可能性があり、今後は体細胞変異全体の理解を深めることで、より精度の高いリスク評価と個別化医療の実現を目指していきたいと考えています」と展望。

また、「本研究はBBJという大規模研究基盤があって初めて可能となりました。大規模ゲノム研究は欧米人データを中心に進められてきましたが、日本人に特徴的な遺伝的背景を明らかにするには、日本人集団の大規模データが不可欠です。代謝疾患、免疫疾患、がんなど多様な疾患を横断的に解析できるBBJは、日本人を含むアジア人における個別化医療を推進するうえで欠かせない存在と考えております」とBBJの意義を強調している。

PAGE TOP

PAGE TOP