
徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest

Tokushukai medical group newspaper digest
2025年(令和7年)11月03日 月曜日 徳洲新聞 NO.1516 3面
札幌東徳洲会病院医学研究所は旭川医科大学、日立ハイテクとの共同研究により、従来の遺伝子解析装置であるDNAシーケンサー(キャピラリーシーケンサー)を改良した装置を活用し、多くの膵がん患者さんに見られるKRAS遺伝子の変異に関し、1%未満という低頻度の変異の検出に成功した。早期発見が難しい膵がんを低コストに早期診断する手法の確立につながる成果であり、今後の研究の進展と将来的な臨床応用が期待される。
「早期診断技術を確立して社会実装し、患者さんを膵がんから救うことが目標です」と口をそろえる水上部門長
「早期診断技術を確立して社会実装し、患者さんを膵がんから救うことが目標です」と口をそろえる小野部門長
札幌東病院医学研究所の水上裕輔がん生物研究部部門長(旭川医科大学内科学講座消化器内科学分野教授)、小野裕介ゲノム診断研究部部門長、旭川医科大学に設置された先進ゲノム地域医療講座(共同研究講座)の玉村伸恵・技能補佐員らの研究グループが、日立ハイテクとの共同研究として取り組んだ。
研究成果をまとめた論文は、国際学術誌『Scientific Reports 』に掲載。論文タイトルは「High Dynamic Range Capillary Electrophoresis Method for Sensitive Detection of Low-Frequency Driver Mutation(ダイナミックレンジを拡張したキャピラリー電気泳動による低頻度がんドライバー変異の高感度検出)」。
多くの膵がん患者さんでは、ごく初期の頃からKRAS遺伝子などに変異が出現することが知られており、こうした遺伝子変異の検出は早期診断の有効な手がかりとなる。ただし変異は微量で従来のDNAシーケンサーでは、信号の飽和により精度が低下して正確に検出することが難しかった。信号の飽和とは、検出器の性能の限界によって、圧倒的多数の正常遺伝子が発する信号に、遺伝子変異の微量な信号が埋もれてしまい、変異を「検出できない」あるいは「精度が低下する」ことを意味する。
今回の研究では、日立ハイテクが開発したダイナミックレンジ(検出可能な信号の範囲)を拡張した蛍光検出法であるHiDy(High Dynamic range)技術を搭載して改良を加えたDNAシーケンサー(HiDy-CE)を活用。HiDy技術は、検出単位を小さくすると同時に数を増やすことで、信号の飽和を低減し検出精度の向上を図る技術だ。
検出精度を検証するため、手術で摘出した腫瘍組織由来DNAと正常組織由来DNAを混合し、変異割合を段階的に変えた検体を用意して旭川医科大学で解析を実施。さらに、膵がんが疑われる34例から針生検で採取した腫瘍組織を対象に、札幌東病院研究所が保有する高性能なデジタルPCR(遺伝子増幅)やターゲットシーケンスによる検出結果との比較を行った。
その結果、KRAS遺伝子の代表的な変異であるG12Vに関して、0.5%という低頻度の変異検出に成功。また、34例の針生検で採取した検体を対象とした解析でも、HiDy-CEはデジタルPCRやターゲットシーケンス(次世代シーケンサー)と同等の精度があることがわかった。さらに、針生検の検体に含まれる変異DNAを、市販の正常な野生型DNAと混合して検出限界を調べたところ、これもG12Vは0.6%の変異を検出することができた。
水上部門長は「これまで1%以下という低頻度の遺伝子変異を検出するには、次世代シーケンサーやデジタルPCRといった高性能かつ高価な解析装置が必要で、一般病院にはコスト面から導入のハードルが高いのが実状でした。一方、これらと比べて安価な従来のDNAシーケンサーでは、10%程度の頻度の変異検出が限界でしたが、今回の技術開発により低頻度の遺伝子変異も検出可能であることを示せました」と成果をアピール。
小野部門長は「キャピラリーシーケンサーでは一度に少数の遺伝子しか解析できません。臨床で使うとなれば、同時に多数の遺伝子解析が可能となる技術が求められます。こうした技術を組み合わせることで、実用化に近づけていくことができます」と展望。「早期診断技術を確立して社会実装し、患者さんを膵がんから救うことが私たちの目標です。徳洲会グループ内外と連携しながら研究を進展させていきたい」と、ふたりは口をそろえる。