徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2025年(令和7年)09月08日 月曜日 徳洲新聞 NO.1508 1面

羽生総合病院の前立腺肥大症治療
「アクアブレーション」を開始
ロボット制御下で高圧水流により自動切除

羽生総合病院(埼玉県)は「AQUABEAMロボットシステム」を導入し、前立腺肥大症に対するアクアブレーションと呼ばれる新しい治療法を開始した。南秀朗・泌尿器科部長が4月に着任したことによる。同システムは2023年6月に保険収載となった医療機器で、経尿道的に挿入した棒状の器具から噴射する高圧水流によって前立腺組織を切除する。低侵襲で出血が少なく熱損傷がないことから、勃起機能不全や射精障害、尿失禁といった合併症のリスクが小さい。また、治療計画に基づきロボット制御下で自動切除を行うため、迅速に高精度の手術ができる。湘南鎌倉総合病院(神奈川県)に次ぎ徳洲会では2施設目、埼玉県下では初の導入だ。

合併症リスクが小さい低侵襲治療

「低侵襲手術を含む標準治療をしっかりと提供していきたい」と南部長

前立腺は男性に備わる生殖器のひとつで、膀胱のすぐ下にあり、尿道を取り囲むようにしてある。加齢などで肥大し排尿・蓄尿障害を引き起こすのが前立腺肥大症だ。薬物療法で効果が十分に得られない場合などに手術を行う。

手術療法としては従来、内視鏡を用いて経尿道的に電気メスを挿入し、前立腺を削り取るTURP(経尿道的前立腺切除術)が主流だったが、近年では負担がより小さいHoLEP(ホルミウムレーザー前立腺核出術)などレーザー手術が増えている。

ロボット制御下で前立腺組織を自動切除するアクアビーム

低侵襲治療に注力する南部長は、アクアビームに加えて、前立腺肥大症に対しては2022年に保険収載となったウロリフト(経尿道的前立腺吊り上げ術)と呼ばれる治療法も実践、国内有数の実績をもつ。さらに、手術支援ロボットのダヴィンチの術者資格やプロクター(指導者)資格ももち、前立腺がん、腎がん、腎盂形成術などの手術や、がん薬物療法も手がける。羽生病院には放射線治療装置もあるため、がんの集学的な治療が可能だ。同院泌尿器科は常勤医5人体制と充実し、同科全般の幅広い疾患に対応。南部長を含め3人がダヴィンチ手術を施行できる。

「内視鏡外科手術やダヴィンチ手術が普及した背景には、低侵襲手術に対する多くの患者さんからのニーズがありました。前立腺肥大症治療に対しても、より低侵襲な治療を求める患者さんがおられますから、当院でもいち早く取り入れたいと考え、6月にアクアビームによる治療を開始しました」と南部長は説明する。

経直腸エコー画像などを確認しながら慎重に手術を進める南部長(中央)

アクアビームの利点については「尿失禁・性機能障害などの合併症が起こりにくく、切除時間が短く出血が少ないといった利点がありますが、最大の利点は、前立腺のサイズが大きくて出血や合併症のリスクが高く、今まで手術が難しかった患者さんにも手術を行えることだと考えています」と指摘する。

日本泌尿器科学会など関連学会は連名で『適正使用指針』を策定しており、適応対象について「前立腺体積50mL以上の患者で、手術時間が長くなることが予測され、患者へのリスクが増加する場合」と規定。アクアビームは、より大きな前立腺に対して、とくに有用な手術法と言える。南部長はこれまでに270mLという巨大な前立腺をはじめ、100mLを超える前立腺を多数切除し、90代の患者さんにも奏功している。

一方、ウロリフトは前立腺組織を切除せず、専用のインプラントを埋め込み、肥大した前立腺を物理的に持ち上げて尿道を広げる手術法だ。適応は高齢、併存疾患のため従来の手術ができない患者さんとされている。同院は5月にウロリフトを開始している。

「ウロリフトは大きな前立腺には適しませんが、切除や焼灼をしないため、出血リスクがとても小さいことから、血液をサラサラにする薬(抗凝固剤・抗血小板剤)を服用している患者さんでも、休薬することなく受けることのできる治療法です。身体への負担が小さく回復が早いことや、手術直後から血尿の程度が軽度であれば、尿道留置カテーテルを入れる必要がないことが大きな利点です」

南部長は国際的な英文医学ジャーナルである『International Journal of Urology』に「Postoperative Hematuria Is the Key to Achieving No Indwelling Urethral Catheter Immediately After Prostatic Urethral Lift: A Japanese Single-Center Prospective Study(経尿道的前立腺吊り上げ術後にカテーテルを留置しないための鍵は術後血尿である:日本における単施設前向き研究)」と題する論文を発表するなど学術活動も活発だ。

同院はアクアビームやウロリフトのそれぞれの適応や特性をふまえ、使い分けている。開始から3カ月間で治療件数はアクアビーム14件、ウロリフト15件と順調に推移(8月末時点)。

専用モニター画面上に 切除範囲をマッピング

アクアビームを用いた治療は全身麻酔下で行う。まず、経直腸超音波(エコー)検査のプローブ(超音波を受発信する探触子)を経直腸的に挿入。次に、先端に噴射用のノズルが付いたハンドピースという棒状の器具に、膀胱鏡のスコープをセットして経尿道的に挿入し、スコープの位置や超音波画像を調整後、術者は膀胱鏡と経直腸エコーの画像をリアルタイムに確認しながら、専用モニターの画面上に切除範囲を指定するマッピングを行い、治療計画を登録する。

フットペダルを踏むと、治療計画に沿ってロボット制御下に高圧水流を噴射し前立腺組織を切除する。1回当たり5分間の噴射を2回繰り返す。術者は膀胱鏡画像やエコー画像をモニタリングし、必要に応じて出力を調整する。切除後、出血箇所があれば経尿道的に電気メスで止血処置を行うが、これは人間の手で行う必要がある。

南部長は「地域の患者さんのため、低侵襲手術を含む標準治療をしっかりと提供し、可能な限り院内で治療を完結できるように取り組んでいきたい」と抱負を語っている。

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