徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2025年(令和7年)09月01日 月曜日 徳洲新聞 NO.1507 4面

湘南鎌倉病院
未病改善目指し音楽療法スタート
産官学連携の臨床研究でエビデンス創出

湘南鎌倉総合病院(神奈川県)は“未病”(健康と病気の間で連続的に変化する状態)の改善を目指す取り組みとして音楽療法を開始した。音楽療法は音楽を聴いたり歌ったり、楽器の演奏や、音楽に合わせて体を動かしたりする活動を通じ、心身の機能維持・回復を図る治療法。小林修三院長の主導で同院国際未病医療センターが実践、エビデンス(科学的根拠)の構築を目指し、目下、横浜国立大学、神奈川県とともに臨床研究として行っている。救命救急をはじめとする“治す医療”にとどまらず、未病の改善による健康寿命の延伸など“支える医療”にも積極的に取り組む姿勢や研究成果の発信を通じ、高度急性期病院として社会的役割を果たしながら、音楽療法の国内普及を後押ししていきたい考えだ。

会場に足を運び参加者と交流する小林院長。奥の電子ピアノを弾いているのが大山・非常勤講師音楽療法による未病改善に期待を寄せる家村センター長(右)と熊谷部長歌に合わせて楽しそうに楽器を鳴らす参加者

「おはようございます。今日も暑いですね。バテていらっしゃらないですか。それでは今日も元気に始めていきたいと思います。最初は、こんにちは♪こんにちは♪ いつものご挨拶の歌から始めていきましょう」

ここは湘南鎌倉病院D棟4階の一室。日本音楽療法学会認定音楽療法士の資格を有し、音楽療法の指導者として招聘した昭和音楽大学音楽学部の大山祥子・非常勤講師の軽妙な語り口でスタート。会場には、神奈川県内の徳洲会グループの介護老人保健施設と特別養護老人ホーム計6施設から、臨床研究への参加に同意した78歳から99歳までの23人の入所者さんが、各施設の職員とともに集まっていた。

取材に訪れた8月6日は第7回目となる音楽療法の日で、6月25日の第1回以降、毎週水曜午前10時から45分間、口腔機能の維持・改善や、呼吸機能への刺激、発話の促進、認知機能への刺激などを狙ったプログラムを実施。会場の一角にベッドを用意するなど体調管理に配慮している。

業務の合間を縫って小林院長が駆け付け、一人ひとりの参加者の様子を確認しながら、一緒に楽器を演奏し寄り添う場面もあった。

冒頭の場面に続き、1970年の大阪万博のテーマソング「世界の国からこんにちは」を、手拍子しながら合唱。続いて音楽に合わせて腕を上げたり肩を回したりする体操や、舌を上下に出す口腔体操を実施した。

このあとマラカスを配り、曲に合わせて鳴らしながら、唱歌の「花火」を合唱。さらに「花火」の歌詞をすべて「パッ」や「ピッ」、「ペッ」に置き換え、嚥下訓練で行うパタカラ体操(パ、タ、カ、ラの音を出す発声練習)を意識したプログラムや、懐メロを歌うだけでなく歌詞を朗読し、タンバリンや太鼓など楽器で演奏した。最後に、エンディングの定番ソングとしている「バラが咲いた」を合唱、明るく和やかな雰囲気のまま、この日の音楽療法を終了した。

参加者からは「ふだんほとんど歌う機会がないので、知っている懐かしい曲を歌うことができ、毎週水曜日が楽しみになっています。講師の先生も飽きさせない工夫をしてくれていて、だんだんと高音の声も出るようになってきました」と好評だ。

高度急性期病院が取り組むことに大きな意義

「米国などでは以前から医療現場で音楽療法が取り入れられており、たとえばICU(集中治療室)の入室期間の短縮や、パーキンソン病の症状改善などの効果が明らかになっています」と小林院長は説明する。小林院長は音楽への造詣が深く、日本音楽療法学会顧問や昭和音楽大学客員教授も務めている。

「日本の医療は、これまで主に死亡率に目を向け、その改善に力を注いできました。これからは、そうした“治す医療”に加え、未病へのアプローチを通じQOL(生活の質)の改善や健康寿命の延伸まで、しっかりと取り組んでいくことが重要視されると考えています」と指摘。

そのうえで、音楽療法の導入について「手術支援ロボットや陽子線治療など、先進的な医療技術を駆使する当院のような高度急性期病院が率先して取り組むことにより、未病医療や音楽療法が重要な医療であることを世の中に示すことができますし、実践する以上はエビデンス創出への貢献が私たちの役割でもあるため、臨床研究に取り組んでいます」と意義をアピールする。

臨床研究の名称は「音楽療法の認知機能およびオーラルフレイルに及ぼす影響に関するパイロット研究」。名称のとおり、音楽療法が高齢者の方々の認知機能やオーラルフレイル(口腔機能の衰え)に与える影響の検証が目的。同院が研究を設計、横浜国立大学と神奈川県がデータの解析・評価を行う産官学連携プロジェクトだ。プロトコル(実施計画書)では、3カ月間・計12回継続参加できる25人(目安)を対象に実施。これを第1クールとし、11月に開始予定の第2クールと合わせて計50人のデータを集める計画だ。

実施前、最終回実施後、最終回実施後から約3カ月後の計3回、神経伝達物質など測定する血液検査や唾液検査、認知機能など確認する問診、舌圧など身体能力の測定、海馬体積の測定、発声・表情・筆圧解析を行い、経時的変化を評価する。

国際未病医療センターの家村和千代センター長は「認知機能の低下を食い止めたり、緩やかにしたりする効果が期待されるため、その一助になればと考えています。また啓発活動を行い、高齢者のご家族にも周知していきたい」と意気込みを見せる。

研究責任者を務める総合診療科の熊谷知博部長は「半分程終わった段階でも、参加者の表情が明るくなり滑舌も良くなっている印象を受けます。第2クールとして新たに参加者を募り、非侵襲的な測定項目を追加し、さらに研究を継続することを考えています」と展望している。

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