
徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest

徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
2025年(令和7年)05月12日 月曜日 徳洲新聞 NO.1491 4面
野崎徳洲会病院附属研究所(大阪府)は2025年度文部科学省科学研究費助成事業(科研費)に申請した研究課題のうち、2課題が採択された。1題は希少がん、もう1題はウイルス感染症をテーマとする内容で、いずれも基礎研究で3年程度の期間を目安にしている。
「早く論文にまとめ、少しでも良い方向に」と熊井・独立研究員
科研費は人文学や社会科学、自然科学など、あらゆる分野の学術研究(基礎から応用まで)を発展させることを目的とする競争的研究費。審査をふまえ独創的・先駆的な研究に対する助成を行う。研究の目的や内容によってカテゴリー(種目)が設けられ、補助金や基金(助成金)が交付される。
今回、採択された研究課題のひとつは「類上皮肉腫はMUC1を分子標的として制がんできるか」がテーマ。熊井準・独立研究員(薬学博士)が手がける。
類上皮肉腫は、まれな悪性腫瘍のひとつ。四肢の末梢に発生することが多く、若い成人男性の罹患率が高い。症状は皮下のしこりなどで、一般的に痛みはないものの、進行すると神経や筋肉を侵して痛みや動きづらさ、さらに進行すると肺などに転移し命を脅かす。治療法は手術による病変の完全切除を基本とし、完全切除が困難な場合は化学療法を行うが、その効果は限定的だ。そのため、エビデンスに基づいた新規治療法の開発が望まれている。
衣笠・独立研究員は「研究によって感染症治療の第一選択肢にも」と期待
こうした背景をベースに、熊井・独立研究員は類上皮肉腫の特徴のひとつ、MUC1タンパク質に着目、類上皮肉腫の薬剤耐性などの悪性化に関するメカニズム解明を目指す。「MUC1は粘性物質のムチンを主成分とするタンパク質で、細胞を覆いバリア的な機能をもちます。一般的に消化管などで上皮細胞から産生されるため、上皮由来でない肉腫では基本的に発現しないはずですが、類上皮肉腫の場合、過剰に発現しているケースが多く見られます。上皮系のがんでは薬剤効果の減少要因にMUC1を指摘する報告もあるので、今回の研究では類上皮肉腫でMUC1を標的として、がんの増殖抑制・薬剤効果の改善などを検証します」(熊井・独立研究員)。
研究は症例が集まりやすい大阪国際がんセンターと共同で実施。熊井・独立研究員は「できるだけ早く論文にまとめ、少しでも良い方向につなげていきたいです」と意欲を見せる。
もう1題は「RNAウイルス感染におけるヒストン修飾を介した遺伝子発現制御機構」がテーマ。衣笠泰葉・独立研究員(理学博士)が研究代表者を務める。
ウイルスに感染すると、感染した細胞内で、さまざまな遺伝子の変化(応答)が起こる。衣笠・独立研究員は遺伝子の調節システムのひとつであるヒストン修飾(DNAを折りたたんで細胞核内に収納するタンパク質で、修飾が付くことによって遺伝子の発現を調節する)の変化について以前から研究しており、これまでの研究でウイルスの感染制御にはヒストン修飾と関係のある「CNOT4」という分子が作用している可能性を把握。
これをふまえ、今回の研究はCNOT4がヒストン修飾をどのように変化させてウイルスを抑制するのか、その具体的メカニズムの解明を目的に行う。
衣笠・独立研究員は「ウイルスに対する細胞の防御応答として、ウイルス自体の分解やウイルスの増殖を抑制することはわかっていますが、私たちは先行研究から、CNOT4がヒストン修飾を制御し、それらの応答を強めるのではと考えられるデータを得ています」と説明。
加えて「具体的なメカニズムが明らかになれば、CNOT4による免疫機能の増強、ひいてはウイルス抑制を見据えた治療につながる可能性があります。また、これは別の研究になりますがCNOT4が何らかの原因で減少することもわかりつつあり、CNOT4が減少している方は重症化するリスクが高いという診断基準にもなり得ます」と意義を強調する。
研究の行いやすさから、メインで使用するのはインフルエンザウイルス。生物学で使用する細胞を感染させ、CNOT4の遺伝子を消失させた際の細胞応答の変化を検証する。COVID-19も対象とし、生ウイルスを保有する群馬大学と連携して研究を進める。
衣笠・独立研究員は「CNOT4は今のところウイルス感染全般に影響しているように見えます。広範囲で効果があるとわかれば、適合する薬の開発などクリアすべき課題はまだまだありますが、感染症治療の第一選択肢にもなり得ると期待しています」と力を込める。