徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2025年(令和7年)05月05日 月曜日 徳洲新聞 NO.1490 1面

八尾徳洲会総合病院
小児へのダヴィンチ手術を初実施
ロボット支援下腹腔鏡下腎盂形成術

八尾徳洲会総合病院(大阪府)は、初めて小児患者さんに手術支援ロボット「ダヴィンチ」を用いた治療を行った。腎盂尿管移行部閉塞(PUJO)に対するロボット支援下腎盂形成術で、木村拓也・副院長兼肝臓外科部長(日本小児外科学会認定専門医)が執刀した。患者さんの経過は良好。木村副院長は「小児外科では患者さんの狭い体腔で難しい縫合を行わなければならず、人間の関節よりも可動域が大きい手術支援ロボットを活用したほうが、より安全性が高いケースがあります」と指摘。「今後も丁寧に症例を重ねながら、困っている患者さんに貢献したいです」と語る。

自院にとって初の症例に臨んだ(左から)河島医長、木村副院長、山中医長ダヴィンチを用いた手術スキルを磨く木村副院長

PUJOは、腎盂と尿管をつなぐ部分(腎盂尿管移行部)が細くなり、尿が流れにくくなる病気。通常、腎臓で生成された尿は袋状の腎盂に流れ、その後、尿管を通って膀胱に到達するが、腎盂尿管移行部が閉塞すると尿が腎盂内に充満し、尿路感染症や尿路結石、腎機能低下(水腎症)などリスクになりやすい。原因は移行部の組織異常や、腎臓へと走る移行部付近の血管位置の異常などが指摘されている。診断は超音波(エコー)や血液、CT(コンピュータ断層撮影)、腎シンチグラフィー(放射性医薬品を用いた検査)といった各種検査で付ける。

根治には手術で閉塞した部位を切除し、腎盂と尿管を縫合する方法(腎盂形成術)のみ。かつては開腹だったが、1990年代に腹腔鏡ができるようになり、2020年4月に手術支援ロボットによる腹腔鏡下腎盂形成術(RAPP)が保険収載され、より低侵襲かつ早期の社会復帰が可能な治療が実施できるようになった(乳幼児は現在も開腹手術が標準治療)。

こうしたなか、八尾病院は今年2月にPUJOの小児患者さん(10歳未満)にダヴィンチを用いた手術を実施。同院にとって、小児患者さんへのダヴィンチ手術は初の試みだ。

患者さんは発熱や腹痛などを繰り返すことから、同院を受診。エコー検査の結果、腎臓に血液を送る腎動脈が、腎盂尿管移行部の上をまたがって走行し、腎盂尿管移行部を圧迫していることが判明した。木村副院長は「2㎜程度の細さしかない尿管を、しかも小児の狭い体腔内で縫合しなければならないことから、拡大視野で術野が見やすく、人間の関節よりも可動域が広いロボットアームのメリット生かしたほうが、より安全に行える」と、ダヴィンチによる腹腔鏡下腎盂形成術の実施を決断した。

手術当日は、木村副院長が執刀し、助手として同院小児外科の山中宏晃医長と河島茉澄医長(日本小児外科学会認定専門医)がサポート。さらに日本ロボット外科学会の「Robo Doc国際A級認定医」資格をもつ大関孝之・和泉市立総合医療センター(大阪府)泌尿器科部長の協力も得て、適宜、アドバイスを受けるなど、より安全に配慮した。

手術は約2時間半で終了。閉塞した部位を切除し、腎動脈の圧がかからない位置で腎盂と尿管を縫合した。現在も外来でフォローしているが、経過は良好だ。「患者さんは元気に通院しています。親御さんも大変喜んでいらっしゃいます」と木村副院長。

山中医長は「小児のロボット支援手術に立ち会ったのは初めて。成人に比べて体が小さいため手術は難しいのですが、スムーズに進み、経過も順調で良かったです」と振り返り、河島医長も「貴重な1例目に立ち会えて光栄です。丁寧に教えてくださった大関先生をはじめ、スタッフなど、かかわったすべての方に感謝します」と笑顔を見せる。

経験と環境でスムーズに

初症例ながらスムーズに終えることができた要因を、木村副院長は「経験と環境」と指摘する。経験については、四半世紀前から小児の腹腔鏡手術に従事。当時、勤務していた大学病院で小児外科の教授と共に小児の腹腔鏡治療体制を立ち上げた。「まさに小児の腹腔鏡の黎明期ともいえる時期で、鉗子同士が接触してやりにくいところから、ひとつずつ技術改変していきました。その後、単孔式が世に出始めた頃に当院に入職。小児外科を立ち上げ、道具を一からそろえ、スタッフも教育し、小児の腹腔鏡の症例を重ねていきました。成人と異なり症例が限られるため1例ずつ考えながら治療し、学会や論文などでも積極的に発表しています」と説明する。

そのかたわら、肝胆膵を中心に外科医師としてロボット支援手術も経験。ダヴィンチが自院に導入された21年12月以後、成人の患者さんを対象に症例を重ねた。「黎明期の苦労を含め、これらの経験から今回、ロボット支援手術でできると判断しました」(木村副院長)。環境については、全国でも数少ない小児外科専門医が複数在籍している点を指摘。また「新生児でも麻酔ができる医師の存在も大きい」と麻酔科への謝意も表す。

木村副院長は「徳洲会グループでも小児外科のケースが増えていけば良いと思います。合併症を起こさないなど、きちんと対応していくためにも慎重に症例や治療方法を見極めながら今後も取り組んでいきます」と力を込める。

PAGE TOP

PAGE TOP