徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2024年(令和6年)12月23日 月曜日 徳洲新聞 NO.1472 1面
帯広徳洲会病院(北海道)は食道の蠕動運動障害や食道下部に狭窄を呈する食道アカラシアという疾患に対し、高度な内視鏡技術を要するPOEM(Per-Oral Endoscopic Myotomy:経口内視鏡的筋層切開術)と呼ばれる治療を初めて施行した。離島・へき地病院から都市部に立地する病院・診療所まで、積極的に応援診療に取り組む岸和田徳洲会病院(大阪府)消化器内視鏡チームを母体とするJapan Endoscopy Team(JET)の消化器内視鏡スペシャリストである神戸徳洲会病院の井上太郎副院長と星川聖人・消化器内科部長が、帯広病院に出向き同院スタッフと協働し実施。
POEMを施行する(右から)井上副院長、星川部長(写真はダブルスコープ法実施中の様子)
POEMに加え大腸ESDや上下部内視鏡検査も実施
食道アカラシアは食道の運動機能に異常が生じ、食道の下部にある括約筋(下部食道括約筋:LES)が適切に開かなくなる病気。食べ物や飲み物がスムーズに胃に送られず、食道内に滞留し、横になった時の食べ物の逆流・嘔吐、それによる誤嚥性肺炎などを引き起こす。原因は、まだ完全に解明されておらず発症頻度の低いまれな疾患だ。
治療法は薬物療法やバルーン拡張術があるが、再発も多く根治は望めない。根治療法は外科手術による筋層切開術(開腹手術・腹腔鏡手術)や、低侵襲な内視鏡治療POEM(2016年4月に保険適用)がある。
「食道アカラシアは食道と胃との境にあるLESが高度に肥厚し、弛緩不全を来している状態です。POEMでは肥厚した食道輪状筋を切開し、収縮を解除する治療を行います。食道は周囲に大動脈や気管など重要な臓器があり、正確さと慎重さが求められます。ESD(内視鏡的粘膜下層剝離術)の経験が豊富な医師でなければ難しい治療です」と井上副院長は説明する。
POEMは9月12日に全身麻酔下で行った。井上副院長が執刀医、星川部長が助手を務めた。患者さんは60代男性で、30年前から飲み込みにくさを自覚し、他院で薬物療法やバルーン治療を受けてきたが、再発を繰り返したため、POEMを施行。
POEMは、まず食道造影検査や上部内視鏡などで食道内の異常蠕動波などを観察し、切開する筋層の範囲を決定する。「これがとても重要で、細やかな筋層切除範囲の決定が患者さんの予後やQOL(生活の質)を大きく左右します」と井上副院長。
次に筋層を切開するため、粘膜下層と筋層の間に内視鏡スコープを潜り込ませる“粘膜下層トンネル”を作成。これは、ESD技術の応用で、粘膜下層に生理食塩水を注入し、表層粘膜を浮き上がらせ、内視鏡が通れる大きさのトンネルを胃に向かってつくる。
トンネルができたら食道輪状筋を切開していく。井上副院長は食道周囲の血管などを傷つけないよう慎重に手技を進め、終盤、ダブルスコープ法と呼ばれる操作を実施。「助手が経鼻内視鏡をセカンドスコープとして口から挿入、胃内に導き、下部食道括約部まで適切に切開されていることを確認する手技です」と星川部長。筋層が適切な範囲で十分に切開されていることを確認し終了した。治療時間は1時間強だった。星川部長は「帯広病院がある十勝地方は医師不足のため、地域完結の医療を提供できるよう、これからもサポートしていきたい」と意気込む。
同院の大下まり子・消化器内視鏡技師は「事前に1階の内視鏡室から2階の手術室への内視鏡システムの運搬や、手術室のレイアウトなど、内視鏡室と手術室の職員が連携し綿密に計画を立て、シミュレーションも2回行いました」。当日はモニターや無影灯の位置の微修正だけですんだ。臨床工学科の鈴木陽介・臨床工学技士も「スムーズに治療が進められるよう、また医療機器のトラブルにも対応できるように準備しました」。
井上副院長はPOEMが先進医療だった13年頃から、考案者である昭和大学医学部の井上晴洋教授(当時)の指導を受けながらPOEMを開始。これまでに岸和田病院、名瀬徳洲会病院、徳之島徳洲会病院、宮古島徳洲会病院、福岡徳洲会病院で施行経験がある。井上副院長は「“生命だけは平等だ”の理念を実践するため、離島・へき地をはじめ医療が不足している地域に自分たちが出向き、都市部と同等の治療を届けることがJETの目的です」とアピールしている。